季刊すえとこ 第3号 鍼灸師とお灸メーカーをつなぐコミュニケーションマガジン 「すえとこ」というタイトルには、「お灸をすえるところ」=「ツボ」「治療院」という意味を込めています。お灸をすえる習慣がもっと根付いてほしい、そのために鍼灸師の先生方との情報交換やつながりを広げる場を創りたい、という思いで2022年4月に創刊しました。毎号株式会社山正の社内で制作し、メーカーの目線で様々な事例や話題をご紹介・発信いたします。先生方の治療活動に役立つような情報やアイデアを読み取っていただければ幸いです。 # 目次 ## 1. 巻頭座談会 「お灸ってすごい」に必要なエビデンスを求めて 辻内 敬子 先生(女性鍼灸師フォーラム代表)× 坂口 俊二 先生(関西医療大学) 坂本 智子 先生・千葉 三起子 先生・早坂 恵子 先生 水本 絢子 先生・小井土 善彦 先生・井上 律子 先生 ## 2. リサーチ!わたしの鍼灸治療 野田 まこと 先生(まこと鍼灸院) ## 3. Closeup!治療院 もぐさんぽ 鋤柄 誉啓 先生(お灸堂) ## 4. おいしい東洋医学 唐沢 具江 先生 ## 5. 山正ニュース 発行 株式会社山正 2022冬号 Vol.3 2022年10月20日発行(季刊) # 1. 巻頭座談会 「お灸ってすごい」に必要なエビデンスを求めて〜女性鍼灸師フォーラムの挑戦〜 辻内 敬子 先生 女性鍼灸師フォーラム代表 坂口 俊二 先生 関西医療大学大学院 保健医療学研究科 教授  坂本 智子 先生 「はり灸サロンまぁる」(愛媛県松山市)鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・助産師・看護師・保健師 千葉 三起子 先生 「鍼灸院CHIBA」(東京都練馬区)鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・看護師・保健師 早坂 恵子 先生 「せりえ鍼灸室」(神奈川県横浜市)鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師 水本 絢子 先生 「エスペラァンスはりきゅう山本院」(広島県広島市)鍼灸師 小井土 善彦 先生 「せりえ鍼灸室」院長 鍼灸師 井上 律子 先生 「せりえ鍼灸室」スタッフ 鍼灸師・助産師・看護師 女性鍼灸師フォーラム代表・辻内敬子先生は、同フォーラム会員の治療院が参加する多施設共同ランダム化比較試験を行い、冷え症に対するセルフケアによる灸の効果をレッグウォーマーと比較して検討する研究結果(注1)を報告されました。この研究結果は「お灸ってすごい」と題したリーフレットにわかりやすくまとめられ、鍼灸師向けに広く配布しWEB上で公開されています。この研究に参加された8名の先生方にお集まりいただき、今回の研究の意義や研究成果の活用についてお話を伺いました。前編では今回の研究に至った経緯や研究に参加された先生方の感想を共有し、この研究の意義を改めて話し合っていただきました。 【記事注釈】 1 辻内敬子. 小井土善彦. 坂口俊二. 成熟期女性の冷え症に対する温灸によるセルフケアの効果―レッグウォーマーを対照とした多施設共同ランダム化比較試験―. 日本東洋医学雑誌. 2021; 72 (4): 341-348. 【記事注釈おわり】 ## お灸の手ごたえをエビデンスとして示すための臨床研究 これまで二十年やってきたことが、実を結んだ 辻内先生 まずは、研究に至った経緯を振り返りたいと思います。私は1992年から、妊婦さんに対するお灸によるセルフケアを実践してきました。当時は出産への人工的な介入が多く実施されていた時代背景の中で、医療介入をなるべく避けて自然なお産を希望する妊婦さんが増えており、お灸がとても受け入れられていました。助産院の助産師もお灸に手ごたえを感じてくださって、妊婦さんにお灸をすすめてくださる方も出てきました。そこで、「安産のためのお灸教室」を都内や横浜のクリニック、助産院で開き、お灸の指導を行ってきました。  しかし、産院の医療者の理解を得ることが難しくて、思うように普及が進まず、もどかしい思いをしていました。そんな中で、矢野忠先生(現、明治国際医療大学学長)から「お灸を含め、東洋医学を普及させるためには、研究して、結果を学会で報告していくことが必要だ」とアドバイスをいただき、臨床研究をはじめました。それが1996年くらいのことなので、今から26年も前になってしまったのですね(笑)。それから、妊婦さんに対する鍼灸治療の効果やお灸のセルフケアなどをテーマに、鍼灸以外の関連学会でも報告を続けてきました。さらに、1999年に女性鍼灸師フォーラムを立ち上げ、鍼灸師のための産婦人科領域の勉強会を開催し活動範囲を広げてきました。  一方、助産師によるケアに関する研究も行われ、その中のひとつに、中村幸代先生の冷えと妊婦さんの健康に関する研究(注2)が報告されました。その後、冷えと異常分娩の関係性なども報告され、多くの助産師が妊婦さんの冷えに対するケアは重要だと考えるようになりました。さらに中村先生は、冷え緩和のセルフケアプログラムに対するランダム化比較試験(注3)を報告しました。そのプログラムには、レッグウォーマー、エクササイズ、ツボ押しの3つが選ばれ、それらの効果を比較検証するものでした。しかし、残念ながら、冷えの対処法の中にお灸が入っていませんでした。そこで私は、冷えの対処法には、お灸も入れたい!と思って、それが活動の目標に加わったわけです。  私たち鍼灸師は、臨床では冷え症にお灸や鍼がよいことは手ごたえとして感じています。その手ごたえをエビデンスとして示すために臨床研究の実現に向けて構想を練り、小井土先生や井上先生、そして冷えの研究を続けてこられた坂口先生の協力を得て今回の研究を実施するに至りました。 【記事注釈】 2 中村幸代. 冷え症のある妊婦の皮膚温の特徴および日常生活との関連性. 日本看護科学会誌. 2008; 29: 878-884. 3 Nakamura S. Horiuchi S. Randomized Controlled Trial to Assess the Effectiveness of a Self-Care Program for Pregnant Women for Relieving Hiesho. The Journal of Alternative and Complementary Medicine. 2017;23 (1): 53-59. 【記事注釈おわり】 ## 多くの施設で多くの手が携わったデータの方が一般化しやすい 辻内先生 研究は、女性鍼灸師フォーラムの会員が参加すること、会員施設が参加する多施設共同で臨床研究を行うこと、研究成果を多くの鍼灸師に利用してもらえるように公の研究として行うことを条件に計画しました。そこで、公的な研究とするために公益財団法人東洋療法研修試験財団の2019年度の助成金を申請しました。坂口先生には、その前年から書類の作成アドバイスなど実際の準備に関わっていただき、また研究デザインの構築や研究倫理への対応について随時相談に応じてもらうなど研究の核になっていただきました。  一方、女性鍼灸師フォーラムでは、冷えを理解するための学習会を開催しつつ、研究に関心のある先生を募り、来院患者の傾向や倫理的な適性を判断するための情報を集めていきました。その間に、研究対象を妊婦さんに限定すると試験の実施が非常に困難になってしまうことがわかり、一般の女性を対象に行うことにしました。研究協力施設は、東日本と西日本から4施設を選定しました。 ### 成熟期女性の冷え症に対する温灸によるセルフケアの効果 ―レッグウォーマーを対照とした多施設共同ランダム化比較試験― 概要 対象者 冷え症評価基準を満たす18〜39歳の成熟期女性(注4) 灸群25名、レッグ群24名に無作為に割り付け 実施場所 鍼灸院CHIBA(東京)、エスペラァンスはりきゅう山本院(広島)、はり灸サロンまぁる(愛媛)、せりえ鍼灸室(神奈川) 介入方法 灸群は就寝前に左右の湧泉・三陰交・足三里に長生灸ハードを各2壮使用。(そのうち三陰交と足三里の1壮に少煙の長生灸お灸日和を用いた)レッグ群は就寝中38cm丈のレッグウォーマーを下腿部に着用。いずれも4週間継続してもらい、介入中は週1回連絡を入れ、体調や介入の実施状況、有害事象発生の有無を確認した。 結果 レッグウォーマーに比べて灸のセルフケアの方が、冷えの程度、併存症状を軽減し、体温較差も抑えることができた。さらに安全性も確認された。 介入前後の変化量(介入後から介入前を減算) VASによる冷えの程度 長さ100mmの横線(左端を「冷えを全く感じない」右端を「これまでに感じた(経験した)最も強い冷え」に設定)を用いて、その時感じる冷えがどの程度かを患者に縦線で印をつけてもらい、左端からの距離を測定し、冷えの程度を数値で評価した。 灸群-8.9 レッグ群-0.6 併存症状の苦痛度得点 冷え症の女性が併せ持つ15の不快症状について、自覚頻度とつらさの程度を掛け合わせたものを症状得点とし、それを合計した。 灸群-39.9 レッグ群-19.9 体温較差 放射温度計を用いて前額中央と四肢末梢(経穴)の各体温を測定した。 前額-合谷差 灸群(左)0.1(右)0.2 レッグ群(左)1.3(右)1.3  前額-太衝差 灸群(左)0.7(右)1.1 レッグ群(左)2.2(右)1.5 前額-湧泉差 灸群(左)0.2(右)0.5 レッグ群(左)2.1(右)1.9 有害事象の発生有無 灸群なし レッグ群皮膚掻痒1名 【記事注釈】 妊娠中や産後間もない方、糖尿病や動脈硬化症などの罹患者、漢方薬を常飲している者、鍼灸治療院に3ヵ月以上通っている方などは除外となった。詳しくは原著を参照 【記事注釈おわり】 坂口先生 臨床研究は大きな研究施設や大学などで完結するものが多いのですが、ひとつの施設(施術所)というよりは多くの施設で多くの手が携わったデータの方が一般化しやすいので、(研究結果が)将来多くの方に役立つ研究になったと思います。4施設の地域が分散したことも、そういう意味ではよかったと思います。1施設で少数のみが研究に携わると、例えば施術を伴う場合などは、それらの影響を強く受けてしまう恐れがあります。今回の研究では4施設がそれぞれ、基本的に同じ用具を使って同じ指導をして、それでも少しずつ差異があると思いますが、同じ方向で介入した結果です。ばらつきが出ている中でも、群間差がみられ、温灸によるセルフケアの方がレッグウォーマー装着より効果的でした。これはすごく大事なことだと思います。  私は冷えや産後腰痛の研究をやってきましたが、先生方の臨床の手ごたえをデータとして示すという点ではうまくいっていないという思いがありました。臨床の形をどのように研究に落とし込むか、落とし込んだ後にどういったことを意識するか、例えばサンプルサイズの問題や解析の方法といった点について、これまでの経験を活かし改善を加えた上で取り組みました。今回の研究ではこれまでの中でもデザインとしての完成度も高かったと思いますし、厳密にできれば結果が出るんだということを改めて知ることができました。  あとはエビデンス(研究の結果)を読まれた方がどう判断されるかということですが、今回はどちらかというと医師が主に所属する学会の雑誌に投稿し、原著論文として掲載されました。医師に有効性が伝わり臨床や患者指導に繋げてもらえるようなことになればいいなと思いますし、鍼灸師から見れば当然の結果に映るかもしれませんが、当然の結果こそエビデンスとして示すことが非常に重要です。それをきちっと示せたという意味では、日本での冷え症に対する鍼灸の効果という点では初めてのことになると思います。 ##  多施設で行うからこそ密に連絡を取り合うみんなで力を合わせて進めていく研究の楽しさ 辻内先生 今回は4施設で研究を行いましたが、研究内容に沿って実施しないといけないので、「独自の判断で勝手にやらない」ということは絶対守らなければならないルールに定めていました。研究は不正がなく正確でなければいけませんので、試験の実施から対象者の状況までをしっかり管理する必要がありました。その多くを各施設が担ったので大変だったと思います。 千葉先生 苦労話は他の先生方も山のようにあると思うんですけれども(笑)。一同に集まって話す機会がなく、当時まだコロナ禍の前でリモート会議も主流ではなかったので、疑問点はすべて辻内先生に投げかけて、坂口先生に確認していただき、また共有していただくというような流れで、すごく苦労されたと思います。  データを正確に取るために、正確な手順や基準を厳格に守ること、安全に危険なく進めていくことなど、かなり気を遣いました。自己判断で進めてしまってよさそうなことも、正確なデータが取れないかもしれないと思うと確認することが多くなりました。しかしそのおかげで、どの施設でも条件が統一され、正確なデータが取れたのだと思います。 辻内先生 冷え冷えLINEというグループを作って、そこで頻繁にやり取りをしましたね。 坂本先生 治療の合間にLINEを見たら、未読が20〜30件になっている、なんてことはよくありました。辻内先生からのメッセージはだいたい夜中の0時を過ぎてから届いて、その返事が朝6時に送られてきたりしましたよね(笑)。 早坂先生 私は研究に参加したのは今回が初めてで、本当に大丈夫なのかという不安が大きかったです。どうやって進んでいくんだろうとか、私がやって大丈夫なのかなとか、私の判断ひとつでもしこの結果が大きく変わってしまったらどうしようとか、不安と緊張を抱えながらスタートしました。ただ今振り返ってみると、この多施設でやることが、とても楽しかった。それぞれの先生が疑問に思ったことを密に連絡を取り合って、みんなで力を合わせながら進めていけたことがとっても楽しかったです。  あとは参加するにあたって、研究テーマについて勉強する機会を持つことができたのが私にとっての大きな収穫でした。冷え症について最新の研究ではどのようなことがわかっているのか、お灸の現状はどうか、台座灸の研究はされているのか、などの関心が広がり、実際に調べました。  試験では研究参加者と4週間会えなくなりますので、実際にお身体を診られない状態でお灸を継続してもらい、かつ火傷をさせないために、こまめにフォローアップをしました。最初のお灸指導の時は一方的ではなくコミュニケーションをとりながら伝えることを意識しました。坂本先生が施灸指導案を作成してくださり、この内容に沿って行うことで、4施設統一の指導ができました。こうしたことが今回お灸による有害事象がなかったというところに繋がったと思います。 ## 研究参加者に教えてもらうことがたくさんあった 水本先生 私は広島大学で研究生の経験があったので、研究の大変さは身に沁みているのですが、最初に今回の研究のお話とデザインを聞いて「こんなすごい研究、本当にできるのかな」と不安に思いました(笑)。でも、その後坂口先生の助言をたくさんいただき、デザインがどんどん完成していき、精査されていく中で気持ちが決まりました。  私も早坂先生がおっしゃったように、今となってはこの仲間と一緒に研究に参加できたことが楽しかったし、自分たちだけでなく、これから鍼灸師がみんな使っていけるような素晴らしい研究成果を出すことができましたので、本当にやってよかったという気持ちが大きいです。  私が担当した研究参加者の方々は私以上に熱意があったので、ニーズがあることを感じ逆にこちらが勇気づけられました。残念ながら除外となってしまった方が多かったのですが、研究とは別のところでお灸やレッグウォーマーの使い方を指導するなど、フォローアップさせていただき、中には妊娠に至った方もおられました。お灸は私が思う以上にたくさんの人が知りたい、やってみたい、自分の健康に役立てたいと思っていることを、逆に教えていただいて感動しました。 坂本先生 私はお灸教室を治療院でよく開いているのですが、参加者の中でお灸による変化を感じる人と感じない人、即効性がある人とじわじわ効いていく人などの差があることに疑問を感じていましたし、お灸の指導をもし大人数で同じ条件でやったら、どれくらい差が出るのか、ということに関心がありました。それで今回のお灸の研究の話を聞いた時に、すごくおもしろそうだな、と思って参加させていただいたのですが、いざ飛び込んでみたら…大変でした(笑)。  研究参加者を募る際18〜39歳の年齢層でお灸をやってみたいという声があがったのは、私には意外でした。私の治療院は愛媛県松山市ですので、お灸が身近な土地柄です。それでどちらかというとやいとのイメージが強く、お灸の研究と聞くと怖いとか、心配だとか、本当にできるかなという方が多かったのですが、研究後は「お灸をやってみてよかった」「イメージが変わった」という方がすごく多かったですね。  今回は長生灸ハードを使い、熱くなったらはずすという使い方で指導しています。すぐはずしてしまいますので火傷しない優しい温熱ですが、これだけ効果があるというので、研究が終わった後も2〜3ヵ月続けたいという方もいました。やっているうちに皆さん楽しくなってきたり、効果を感じ始めてからは質問がきたりとか、こちらが何も言わなくても積極的にやられたり、そうしたうれしい反応があったので楽しかったです。今回の研究によって参加者から教えてもらったこと、感じたことがたくさんありました。 辻内先生 研究参加者を集めるのはどの施設もすごく苦労されていました。試験期間が決まっていたので、開始までの限られた時間で各施設12名を集めなければいけないということで、県外に飛び出して募ってくれた先生もおられました。 坂本先生 みなさんから「今何人です」と報告が来るたびに、私のところは集められておらず(試験を)11月にスタートできないという焦りがあったので、ついに愛媛を飛び出すと決心しました(笑)。私は地元が神戸ですので、地元にいる友人や母親の友人の娘さん、香川県の鍼灸学校時代の友人も訪ねました。 千葉先生 私のところは以前来られていた患者さんや現在治療中の患者さんのお友達や身内の方、病院のスタッフの伝手など60名くらいにお声がけしてやっと14名参加者が集まったという感じでした。 水本先生 私は早めに参加者集めをはじめて12〜13人集まっていたのですが、除外対象者ばかりになってしまって途中で0人になってしまい、本当に落ち込んで辞めますって弱音を吐きました(笑)。でも皆さんに支えられて皆さんの頑張りを見て、もう1回やってみようかっていうところから、ちょっと頑張りました。 ## 研究スタイルの新しいモデルとして提示世界への発信と健康政策への導入を目指して 小井土先生 普段から患者さんと直接関わっている開業鍼灸師は、臨床の現場を持っています。一方、研究者の先生方は開業鍼灸師に比べると臨床の現場が少ないと聞いたことがあります。この両者が結びつくことで、日本の臨床研究の幅が広がるのではないかと以前から思っていました。当院にも鍼灸だけでなく、看護系の研究者からもツボはどれがいいのかなど相談をいただくことがありましたが、研究者は臨床現場の知識や経験を必要としています。ですので、今回の研究は臨床家が協力施設として参加する形でコラボできる研究の新しいモデルのひとつとして提示することができたと思います。  一方、臨床家の先生方にとっては、研究に参加することは日常の治療業務と並行して、勉強したりリクルートをはじめとした苦労があるので大変ですが、治療院の外に出ていろんな世界と触れることで、患者さんとの新しい出会いや関わり方ができたり、臨床研究や海外の論文に接することで臨床の幅が広がりますし、経営的にも役に立つことなど、メリットもあります。これからいろんな研究に参加してくれる臨床家が増えて、こうした研究が広まればと思っています。  また、研究だけで終わるのではなく、政策の中に落とし込んでもらえるところまでが私は大事だと思っています。お灸を広く使ってもらい、鍼灸院にもたくさん来てもらい、国民が元気になるように健康政策として取り入れてもらえるようにしていきたい。  話は少し変わりますが、世界でお灸の研究といえば、コクランレビュー 5にもほとんど出てきません。私が調べた範囲では逆子の研究でお灸が使用されていますが、それは棒灸なんですよ。例えばこれに今回使用した台座灸などを加えて、いろんな治療がされている日本独自のお灸のよさを伝えていければと思っています。そしてお灸にはまだまだ可能性があり発展していく中で、様々なお灸のスタイルを世界に発信していくことができれば、お灸の可能性がさらに広がると考えています。昨年ノーベル医学生理学賞が授与されたTRPVチャネルの発見により、生体に備わっている温度センサーの研究が注目されたことも、お灸の研究が前進していくきっかけになると思います。臨床でも国民の日々の健康管理にもお灸が役に立つことを示して、政府にも注目されるような未来を目指したいものです。 辻内先生 そのための第一歩として、今回の研究のことを広く知っていただき、またお灸の普及に活用していただくために、研究成果をまとめたリーフレットを作成しました。こちらは現在女性鍼灸師フォーラムのホームページで公開しております。このリーフレットを使ってお灸を推奨してもらえる機会がもっと増えるといいなと考えています。 (後編へつづく) 後編(次号掲載予定)ではリーフレットの詳しい内容や活用方法、今後の研究の展望についてお話を伺います。お楽しみに! # 2. リサーチ!わたしの鍼灸治療 〜長安 NEO DX編〜 野田 まこと 先生 長安NEO DXを1か月に約1,800〜3,600壮使っているという野田先生。長安NEO DXを施術に用いる際の考え方や実際の使用方法とともに、患者様との接し方やコロナ禍に増えている症状についてお話をお聞きしました。 まこと鍼灸院 滋賀県愛知郡愛荘町 地域密着型の鍼灸院で「あなたのためにできることから」をモットーに、患者様との気さくな付き合いを通じて健康のためのあらゆるケアや気づきを与えられるような治療をおこなっている。 ―患者様の客層や、症状についてお聞かせください。  当院は地元の患者様が多い地域密着型の治療院で、今年で開業12年目になります。お子様からお年寄りの方まで様々な年齢層の患者様が来院されます。この近くに勤務されている方も来られます。  症状としては腰痛、肩こりが多いですが、地域の婦人科や心療内科のクリニックから鍼灸治療をおすすめされて来られる患者様もおられます。場合によっては紹介元の病院やクリニックに通うことを患者様に推薦しており、ご近所での医療機関と連携したコミュニティーケアができていると感じています。 ## 健康のために“できること”を一緒に考える ―予約や診療時間についてはどのような対応をされていますか?  完全予約制にして基本的には午前10時から午後9時までとしています。午前中は高齢者が多く来られます。夜は働いておられる方のために午後7時以降の予約も受けるようにしています。昨日は23時半まで治療しました。  午後9時以降の予約の患者様には「お風呂に入ってから来てね」と声をかけるなど、患者様のライフスタイルや生活習慣をなるべく優先するようにしています。堅苦しくないフレンドリーなお付き合いをさせていただくことで、本音やプライベートの話をしてもらえるようになります。その中にキーワードが出てきて、お灸をすえる場所が定まるという感じですね。 ―野田先生が治療で大事にされていることを教えていただけますか?  私が大事にしているのは一方的な治療を提示するだけではなく、患者様のために「こんな治療ができますよ」と、私が知っている限りの知識やケアを鍼灸治療に限らず提供して、健康になっていただくことです。それを「あなたのためにできることから」というメッセージとしてお伝えしています。本当にその方が求めていることや、気づいておられないけれども改善できることに対して、健康のために“できること”を一緒に考えていきたい。鍼灸治療の考えでは、患者様に勉強をしてもらうことが必要です。身体を悪くしてはじめて自分の健康について真剣に考える機会を持ったという患者様もおられます。健康や身体への意識を高めるために一緒に勉強していきましょうというスタンスで治療に臨みたいと考えています。 ## 今あるお灸の中で理想とする施術ができるのが長安NEO DXだった ―どういうお考えで長安NEO DXをお使いくださるようになったのでしょうか?  鍼灸学校ではお灸の性質としてチネオールの効果を教わりました。よもぎは漢方では艾葉(ガイヨウ)と呼ばれ、殺菌・抗菌能力があり、食べてもよし、アロマ(香り)の効果があり、入浴剤やヨモギ蒸し、もちろんお灸にもなるすごいものです。その効果を治療で最大限活かすために、お灸でチネオールを皮膚に付着させることが非常に大事であると考えるようになりました。  ただ、昔のように肌に直接お灸をすえて火傷をさせて治す方法は受け入れられません。紙管灸は紙管でもぐさを浮かせて燃やすことで、もぐさの成分が皮膚にしっかり付いて温かさを与えるというような構造になっています。理にかなっていて考えられているなと思いました。今あるお灸の中で、私が一番理想とする施術ができる商品でしたので、当院で使用するお灸は現在すべて長安NEO DXです。 ―どのような症状に対して使用されるのでしょうか?  肩こり・腰痛・手脚が動かない・歩きづらいなどの症状に使っていましたが、特に多いのはコロナ禍になってからの長引く強い倦怠感、原因不明のふらつきといった症状へのお灸です。しかも今までにはなかったような若い人がそうした症状を訴えてこられますね。それらはコロナの後遺症や、2回目以降のワクチン接種の影響が大きいようですね。病院に行っても患者として受け入れてもらえなかったり、対処療法の処方薬も効かず困っていた方もお灸で体調がずいぶん楽になったと仰られます。 ―長引いていた倦怠感が、一度のお灸で改善するのですか?  一度施術を受けてもらっただけで楽になったと言っていただくことは多いんですよ。来院された時はどよーんと重苦しい雰囲気なのですが、施術後は「楽になったので明日から仕事や学校に行けます」と仰るんです。これってすごいですよね。漢方や鍼灸は穏やかに効くと一般的には思われていますが、お灸は意外と即効性があるのだと感じています。身体や症状がすごく軽くなったり施術前後の身体の違いを明確に感じることができた患者様は「次はいつ来たらいいですか」と自発的に聞いてこられます。またお灸がしたいということなのでしょうね。はじめのうちは1週間に1回のペースで来院してもらうようにして、楽な状態が続くようであれば頻度を減らしていただいてもよいですよとご案内します。そういう経緯で自身の体調を把握したり、メンテナンスをしようと思える習慣が患者様に身についていき、未病へのアプローチにもなってるのかなって。 ## 経絡上に何壮も並べてすえる ―施術部位やツボ、使い方はどのようなものでしょうか?  倦怠感やふらつき、ストレス症状等を改善させるポイントが、経絡上に並んでいることがあります。そのためツボを選んですえるのではなく、経絡上に長安NEO DXを何壮も並べてすえます。鍼はツボ、お灸は経絡という考えがありますね。 肺が苦しい、呼吸がしにくいという患者様には肺に応じた経絡を、首や肩のこりを改善する流れなど、これまでの試行錯誤によって探し当てた症状に応じた形があるので、それに沿って反応を診ながらたくさんすえます。 【写真注釈】 首・肩のこりに対する使用例。大椎から下の経絡上に長安NEO DXを並べてすえる。 【写真注釈おわり】 ―たくさんすえた時の長安NEO DXの温感がよいのでしょうか?  私の施術方法では長安NEO DXの温感が最適です。台座灸は、紙管灸と比べて熱を感じる時間が短いため、患者様ご自身が熱を感じられたかどうかを判断するのが困難です。何壮もすえて熱を感じたときには、すでに灸あたりになってしまい、倦怠感を起こすことがあります。その点、長安NEO DXはしっかりとした熱を与え、患者様のお灸に対する反応がわかりやすいのです。レギュラーとマイルドの2種類がありますが、当院ではマイルドを使うことが多いです。 ―たくさん使われるということで、使い勝手も重要な点かと思われますがいかがでしょうか。  台紙に押し出し棒が付いているのがやはりとても使いやすいです。たくさん使用する場合でもスムーズにすえることができます。以前は台紙が紙製でしたので、何度も押し出していると、棒の部分で台紙が折れてしまうことがあったのですが、最近はプラスチックの硬い台紙になったのでますます使いやすくなりました。あとは押し出した時のもぐさの高さが一定になるように改善されたり、押し出すときにもぐさが紙管の中で引っかからないように配慮されていますよね。火の付きが早いのも助かっています。煙の量が気になるという意見もありますが、長安NEO DXの燃焼時の香りは患者様の自律神経を整えてリラックスさせる効果があると思います。このお灸の香りが好きなんだという患者様も意外に多いです。 ―患者様の何割くらいに、灸施術をおこなわれていますか?  来院される患者様のうち、約8割の方に灸施術をおこなっています。そのうち4割は美容鍼の患者様です。美容鍼はお顔だけではなくお身体も診ますので、お腹の不調や足のむくみなどお灸で改善できる症状があれば、足や手にすえています。ただ、火傷のリスクはゼロではありませんから、お肌が弱い患者様にはおこないませんし、初めてお灸を受ける患者様には特に説明が必要で、事前にきちんと説明します。  女性にはお灸の認知度が高く、希望される患者様が多いですね。逆に体格のよい男性に限って「熱そう、怖い」と言われます(笑)。女性にとってお灸はまさに救世主だと思います。女性の場合はお灸で治療することを前提に考えています。 ―女性への灸施術というとどういった例がよくありますか?  産後のケアや妊活のサポートでお灸をおこないます。その場合は三陰交から血海までの特有のいくつかの流れでお灸をすえます。  また、更年期障害のホットフラッシュ(のぼせ)に対しては、解渓を中心とした経絡上にすえます。するとのぼせ感が和らぎ、上半身に溜まっていた熱が循環するようになって解消していきます。 ―お灸がコロナ関連症状や婦人科疾患の改善に役立っているのですね。  当院ではお灸が大活躍しています。医療機関では疾患名が付いてはじめてお薬が処方されますが、鍼灸や東洋医学では同じ疾患や症状であっても、ましてや疾患名が付かなくても患者様の体質や生活スタイルに合わせて治療をおこないます。そのためコロナ禍に増えた倦怠感やふらつき、ストレス症状等に対しても、鍼灸治療は適用できます。それがこのコロナ禍でお灸が大活躍している理由でしょうね。お灸の効果を発揮できるよい機会に今後の可能性を感じています。 【写真注釈】 滋賀県名物の飛び出し注意の看板「飛び出し坊や」の鍼灸師バージョンを特注。まこと鍼灸院の目印となっている。 【写真注釈おわり】 # 4. Closeup! 治療院 もぐさんぽ ―第3回・後編― 鋤柄 誉啓 先生 明治国際医療大学 卒 お灸堂 院長 2013年〜 前編(すえとこ2022年7月号)では実際の治療や養生についての考え方をお話しいただきました。つづく後編では、養生の伝え方や「お灸堂」のユニークなコンセプトを通じて、一般の方の目線で東洋医学や鍼灸を考え、発信することの大切さを教えていただきました。 ## 東洋医学は全然違うカルチャーどんな伝え方をするかよく考えなければならない ―“養生”を患者様へ伝える時にはどのような工夫をされているのでしょうか。  私たちがあつかっている東洋医学は一般の患者様にとっては馴染みのない、全然違うカルチャーです。まずそういった意識を持つことがスタート地点なのではないかと思っています。(東洋医学には)どういうよさがあるか、患者様は何を思っているのか、どんな伝え方をすべきか、すべてを柔軟に考え直さないとうまくいきません。私も開業当初は患者様にどうやったら一番喜んでもらえるか、お伝えした養生をどうやったら実行してもらえるか、懸命に考えましたが、やみくもに説明ばかりしても何もやってくれませんでした。そこで最初は伝え方の勉強をずっとしていました。 ―どのように学んでいかれたのでしょうか。  本を読んで学びました。まずはいわゆる基本的な文章をきちんと書けるようになることを目指しました。施術者である前に人として、意味や文法があやふやな文章を書いていると、患者様は会う前から不信感を抱いてしまうものです。  また伝わる文章をつくるのに重要なのは順番です。どういう順番で話を伝えたら聞き手は納得しやすいか、ということを考える必要があります。その人が知りたい情報を、その人が知りたいと思う順番に伝えていくことが大事です。  ほかには、プレゼンやスピーチの型についても勉強しました。例えばスティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学で行った有名なスピーチがあります。テーマを3つに分けることや、キーワードを強調することなどわかりやすく伝えるための型がみてとれます。私も真似をしてあれこれとやってみました。 ## 患者様が知りたいと思わないことは上手に伝えてもわかってもらえない ―伝える力がついてから、患者様の反応は変わりましたか?  これが残念ながら、伝え方を勉強したからといって患者様にわかってもらえるようになるかというと、そうではありませんでした。伝わらないことの一番の原因は、患者様が知りたいと思わないからです。患者様が知りたいと思わないことは、いくら上手に伝えてもわかってもらえませんので、無駄な努力になってしまいます。  それで次にはじめたのが聞き方のトレーニングです。僕はデザインをすることが好きなのですが、デザイン思考では最初にユーザーの観察があり、観察の結果をもとにデザインをつくっていくというプロセスをたどります。鍼灸師の仕事でも患者様を観察するフェーズが大事で、これが無いまま何かを伝えようとすると失敗してしまうのだ、ということに気づきました。  患者様にはそれぞれご自身の生活スタイルや健康管理についての方針や制約があります。その中で何をしたいのか、何ができるか、どうなりたいのか、そういうことを細かく聞き出して把握していきます。その方針に合わせて「できることを一緒にやっていきましょう」という形でスタートしていきます。これでやっと、伝えるための土壌が整うという感じですね。 ―観察を大事にされているから、鋤柄先生は患者様や一般の方の立場で鍼灸を考えることができるのですね。  変な話ですが、そもそも僕が鍼灸師になったのは、自分に可能性を感じなかったからという経緯があります。学生時代からずば抜けて得意なことや好きなことがなかったので、他の人が得意だったり好きなことを仕事に選ぶと、生きてはいけないのでは?と思っていました。当時の私の周囲では誰も選んでいなかった鍼灸師という職業を選びました。  親族に鍼灸師がいて鍼灸師を目指したという先生方もいると思いますが、僕の場合は東洋医学の全くない世界から入ってきたということになります。つまり患者様や一般の方に近い立場で、東洋医学やお灸に対する感覚を共有することができます。  僕は論文を書いて学会で発表をしたり、鍼灸がすごく好きだとか得意だという能力はありません。だからこそこの立場を生かして他の先生方とは違う方向性でやっていこうと思いました。それでお灸はそれなりに好きだったので「お灸だけする人」としてやっていこうと。 ## 鍼灸師なのにお灸しかしてないって思うのは鍼灸師だけ ―「お灸だけする人」の治療院だから「お灸堂」というのは、とてもシンプルなコンセプトですね。  場合によって鍼も使うことがあるので、厳密にはお灸だけというわけではないのですが、「お灸がメインです」というスタンスを表明したことで人目につきやすくなっただろうと思います。でも冷静に考えると「鍼灸師なのにお灸しかしてないなんて珍しい」と思うのは、鍼灸師と業者さんだけです。一般の人からすると、鍼とお灸の違いは「うどん」と「そば」程度のものなんじゃないかと思うのです。鍼院がそば屋さんで灸院がうどん屋さんだと考えてみると世間はそば屋さんばかりですから、どうしてもうどんを食べたい人はわざわざ足を運びます。WEBやSNSの世界では、お灸がメインだと表明しているところがまだ無かったので、お灸堂は差別化ができて今お灸がしたい人の目に留まる存在になることができました。  美容鍼や不妊治療を始められ、成果をあげられた先生方も、患者さんを適切に観察した結果ではないかと思います。顔をスッキリさせたり三陰交のお灸を教えることはどの先生もできることだと思います。大事なのは「こういう困っている人がいるんだ」と気付いた時、その人のためにデザインやパッケージを変えることができるかどうか。その人の目線で行動を変異させることができるかどうか、だと思っています。  僕ら鍼灸師からしたら、お灸だけに絞るということは道具が一つ減ることなので象徴的です。でも患者様からしたら別にそうでもないんです。患者様は、「もっとお灸だけのところが増えたらいいのに」なんて仰るんですよ。増えすぎるとうちは目立たなくなってしまいますけど(笑)。 ―SNSでのご活躍、特にTwitterでの「すきさん」(アカウント名)の情報発信は、フォロワーも多く注目されています。   Twitterは鍼灸師や東洋医学の存在価値に危機感を持って落ち込んだ時にはじめました。僕が持っている鍼灸や東洋医学の知識をすべて世の中に提示して、それで喜んでくれたり、必要としてくれる人が増えていけば、価値を示すことができるのではと思ったのです。  スタートして2ヶ月ぐらいは1日20回程度、患者様のお役に立つことを投稿するというルールでやっていました。そのスタイルを継続して半年くらいで徐々に広まっていきました。その途中から世間がコロナ禍に入り、病気にならない身体をつくらなければいけないという意識が一層高まりました。そして漢方や東洋医学が今まで以上に注目され、その追い風もあって、最終的に出版社様から声をかけていただき書籍の出版にもつながりました。  ところで、最近TikTokをやっているんですよ(笑)。 ## 「やりたいか」よりも「必要か」 ―かなり若い世代向けのサービスですが、需要はあるのでしょうか?  いわゆるZ世代や僕の子供(小学5年生)がTikTokを見ている世代です。そこに僕が入る目的とメリットはないと思っていたのですが、ある日このままではこの世代の人たちの世界にお灸がなくなってしまうのでは…ということを漠然と考えはじめました。今お灸をする必要がなくとも若い世代の方々が大人になった世界にお灸が存在しなければ、試していただくこともできません。そう考えるとこれは必要のある行動です。「やりたいか」よりも「必要か」とか「その方が自然」みたいなことが僕の行動原理です。  ニーズとしては絶対あると思っています。僕は鍼灸師の中でもお灸がしたいのではなくて、「そっちの方が役に立ちますよね」というスタンスです。鍼が嫌いな人はたくさんいるので、お灸を受けたい人もいるし、お灸はセルフケアができる。ならばお灸の方に力を入れるべきだろうと考えます。 ―鍼とお灸をうどんとそばに例えたり、TikTokのお話が出たり、目からウロコが落ちるような思いです。  鍼灸をもっと知ってもらおう、活用してもらおうという時に、「鍼灸どうするか」という話になってしまいがちだと思いますが、そういう時こそ「みんなが何に困っているか」を真剣に考えるべきです。繰り返しになりますが、結局は患者様を観察する思考が大事だということです。実は治療家は普段からそれができているはずです。患者様と直に接して、課題を直接吸い上げることができる唯一の存在ですから、患者様が困っていることは僕らが一番知ることができるし、知っているはずです。しかし鍼灸だけで解決することにこだわってしまうと、うまくいきません。  SNSで何度もテストしてわかったことですが、「鍼灸」の話をした時に興味を持ってくれる方はかなり少ないです。「お灸」の話になると、少し増えます。それが「養生」の話になると、爆発的に増えます。「お灸」という単語を使うと「今現在お灸を検討している人」だけが反応します。お灸を検討していない、だけど身体に不調があるという人の方が圧倒的多数のはずです。だから「鍼灸」や「お灸」以外のところで、まずはその人たちに響く情報発信をすることが必要です。それで僕は「養生」を選びました。でも、「養生」という言葉に馴染みがない、読み方すら知らないという方もおられます。読み手の知らない単語を使うとこれも意味がないので、書籍でも「養生」を使うのは避けたかったのが本音です。 ―「養生」でもまだハードルが高いかもしれない、ということですね。  これからは「養生」を知らない方に、もっと分解して伝えることができればいいな、と思っています。もしくは別の概念をくっつけるとか。例えば仏教の「禅」の思想は、もともと好きで勉強されている人が少数いましたが、「マインドフルネス」という形に抽出されたことで、世界中の人に受け入れられました。  先ほど東洋医学は違うカルチャーだと言いましたが、たとえ「養生」というわかりやすい概念を引き合いに出しても、伝えきれないところがあります。それが異文化を伝える難しさです。だから伝える時にある程度の丁寧さ、親切さが必要だと思います。養生や東洋医学、お灸の世界への入り口を、いかに親切に伝えていくことで、こじ開けていけるか。それは僕の得意分野なので、やりがいのある仕事であり腕の見せ所だと思っています。 # 4. おいしい東洋医学 東洋医学には欠かせない食養生や医食同源の精神 季節に合わせた食養生の楽しみ方について 唐沢先生流の暮らしへの取り入れ方を紹介します 唐沢 具江(からさわ ともえ) 先生 Pubicare Salon 白金台 ピュビケア はりきゅう 鍼灸ディレクター 漢方アドバイザー/ 漢方臨床指導士 弊社「顔へのお灸」セミナー講師を務める。漢方薬局での勤務経験から海外での生薬の買付、イベント視察、薬膳ツアー引率などに携わる。現在も生薬や韓方の学びを臨床に生かすべく様々な活動に取り組む。 冬は閉蔵といい、すべてが閉塞して陽気を外に出さないという意味です。身体を寒さにさらすことなく暖かく保ち、活発的な行動は控え静かに過ごすと陽気を守ることができるとされています。冬の過ごし方しだいで春以降の体調が格段に変わることもあるため大切な季節です。  冬に汗を沢山かくような運動を行うと、体調不良につながることも。寒さにさらされることはもとより、必要以上の発汗は陽気を守るために避けるべきです。腎を守り春につなげるための大切な養生の流れです。 ## 冬の生薬/食材 ### 黒米(くろまい) 四気 平 五味 甘 帰経 脾胃腎 貧血・老化防止など補腎および脾胃への作用に優れている。白米と炊いたり単独でサラダにしたりなど手軽に取り入れられる。 ### 黒豆(くろまめ) 四気 平 五味 甘 帰経 脾肝腎 滋陰(身体にうるおいを与える津液を補う)・補血をしつつ過剰に溜まった水分を排出させ解毒作用もある。健脾(消化器機能を正常にする)のはたらきもあり、三陰交と同様に肝脾腎に作用する。 ポリポリかじって食べるロースト黒豆のおやつもおすすめ 【写真注釈】 1. 黒米石焼ご飯。白米と黒米を別々に洗い給水後に石鍋にいれて炊く。消化を助けるおこげもできる。 2. 黒米たっぷりサラダ。根菜をダイス状に切り色鮮やかに。黒米のみを鍋で焚いて粗熱を取り、野菜と胡麻ドレッシングと和える。 3. 黒米の甘酒。玄米甘酒に、別に炊いた黒米を加え軽く煮る。ゆり根、クコ、松の実やナッツをトッピングする。 4. 黒ごまプリン with 豆乳クリーム。たっぷりの黒ゴマペーストと無調整豆乳、ゼラチン、お好みの量のきび砂糖を加えて仕上げる。冷やし固め豆乳クリームを絞り黒豆をのせる。寒天よりゼラチンが適していて補腎スペシャルなデザートになる。黒胡麻も腎血を補う冬の生薬。ペーストやすりごまにすることでより吸収率が高まります。 【写真注釈おわり】 【記事注釈】 季節と暦について 立春・立夏・立秋・立冬を各季節のはじまりと考え、季節を意識した生薬や食材選びをすることが大切です。 2022年の暦 立春 2月4日 立夏 5月5日 立秋 8月7日 立冬 11月7日 2023年の歴 立春 2月4日 立夏 5月6日 立秋 8月8日 立冬 11月8日 生薬について 生薬の分類は食品か医薬品に分かれ、食品分類のものは一般的に購入が可能。 生薬のパラメーターについて 四気 寒熱温涼の4つの性質を表す。体を温める「温熱性」など。 五味 食材が持つ酸苦甘辛鹹の5つの性質を表す。 帰経 どの臓腑・経絡に作用するかを表す。 【記事注釈おわり】 # 5. 山正ニュース ## 01 バーコードから最新の添付文書をアプリで読み取ることができます  NEOディスポ鍼が該当する医療機器の法律が改正され、添付文書の閲覧方法が変わりました。従来は紙媒体で提供しておりましたが、カートン箱や個装箱の側面にプリントされているバーコードシンボルを専用アプリ「添文ナビ」で読み込むことで、最新版の内容がデータで表示される方式となります。ぜひチェックしてみてください。 対象商品:NEOディスポ鍼のすべてのタイプ・サイズ ポイント 紙媒体で行われていた添付文書の提供が「電子化された添付文書」の提供に変わります カートン箱への添付文書の常時同梱は順次廃止となります ※「電子化された添付文書」の閲覧には専用アプリ「添文ナビ」が必要となります ※紙媒体の添付文書はご請求いただいた際には提供いたします ##02 第62回鍼灸経絡治療夏期大学での企業展示に参加 [2022年8月19〜21日・東京有明医療大学にて]  コロナ前は毎年恒例の夏の展示でしたが、3年ぶりの展示参加となりました。もぐさんの箱きゅうが予想を上回る人気で、多くの先生がたにお求めいただけました。「実は気になっていた」とのお声が多く、実物を見るとついつい買ってしまう・・・ふしぎな魅力のある商品のようです(笑)。サイコロを振ってもぐさんがもらえるチャレンジは、1/6のシビアな確率でしたので、あてられた方は本当にラッキーですね。これからの学会シーズンにも出展していきますので、参加予定の先生方はぜひブースにお立ち寄りください。 # behind the scenes 〜取材の裏側 ## 巻頭座談会 「お灸ってすごい」に必要なエビデンスを求めて   お灸による効果のエビデンスを示し、かつ複数の開業鍼灸師とコラボした新しい研究の試み。参加された8名の先生方にお集まりいただいた座談会では、感染状況を考慮し現地参加は4名となりましたが、活発な意見交換をお聞かせいただきました。  研究が終わってから、改めて成果や研究そのものの意義についてお話しいただくことで、お灸の世界の希望や課題が浮き彫りになりました。お灸をメインとした「すえとこ」に打ってつけのテーマを扱うことができ感無量です。後編もぜひお楽しみに! ## リサーチ!わたしの鍼灸治療 野田 まこと 先生(まこと鍼灸院)   まこと鍼灸院の通称飛び出し坊やは、治療院の目印として玄関口に設置されています。飛び出し坊やは先日NHKの朝の番組「あさイチ」でも滋賀県の“路上アイドル”と紹介され滋賀県を代表する名物となっています。  大阪ご出身の野田先生。滋賀県に移住し開業されましたが、滋賀県の文化にも親しまれ、すっかり地域の人々に愛される鍼灸院になっています。