季刊すえとこ 第4号 鍼灸師とお灸メーカーをつなぐコミュニケーションマガジン 「すえとこ」というタイトルには、「お灸をすえるところ」=「ツボ」「治療院」という意味を込めています。お灸をすえる習慣がもっと根付いてほしい、そのために鍼灸師の先生方との情報交換やつながりを広げる場を創りたい、という思いで2022年4月に創刊しました。毎号株式会社山正の社内で制作し、メーカーの目線で様々な事例や話題をご紹介・発信いたします。先生方の治療活動に役立つような情報やアイデアを読み取っていただければ幸いです。 # 目次 ## 1. 巻頭座談会 「お灸ってすごい」に必要なエビデンスを求めて 辻内 敬子 先生(女性鍼灸師フォーラム代表)× 坂口 俊二 先生(関西医療大学) 坂本 智子 先生・千葉 三起子 先生・早坂 恵子 先生 水本 絢子 先生・小井土 善彦 先生・井上 律子 先生 ## 2. リサーチ!わたしの鍼灸治療 水谷 潤治 先生(Mizutani Therapy Inc. /カナダ・バンクーバー) ## 3. Closeup!治療院 もぐさんぽ 唯内 喜史 先生(鍼灸Tadauchi /愛知県春日井市) ## 4. 山正ニュース ## 5. もぐさんのほっこりラジオ ## 6. すえとこひろば 発行 株式会社山正 2023春号 Vol.4 2023年2月20日発行(季刊) # 1. 巻頭座談会 「お灸ってすごい」に必要なエビデンスを求めて〜女性鍼灸師フォーラムの挑戦〜 後編 辻内 敬子 先生 女性鍼灸師フォーラム代表 坂口 俊二 先生 関西医療大学大学院 保健医療学研究科 教授  坂本 智子 先生 「はり灸サロンまぁる」(愛媛県松山市)鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・助産師・看護師・保健師 千葉 三起子 先生 「鍼灸院CHIBA」(東京都練馬区)鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・看護師・保健師 早坂 恵子 先生 「せりえ鍼灸室」(神奈川県横浜市)鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師 水本 絢子 先生 「エスペラァンスはりきゅう山本院」(広島県広島市)鍼灸師 小井土 善彦 先生 「せりえ鍼灸室」院長 鍼灸師 井上 律子 先生 「せりえ鍼灸室」スタッフ 鍼灸師・助産師・看護師 女性の冷え症に対するセルフケア灸のランダム化比較試験(注1)の結果をもとに作成された「お灸ってすごい」のリーフレット。女性鍼灸師フォーラムの公式WEBサイトで全文公開し、鍼灸師の先生方に広く活用してほしいと辻内先生は話します。後編では論文だけでは伝えきれない興味深い研究成果が記されたリーフレットの臨床での活用方法と、今回の研究を踏まえた今後の展望をお話しいただきました。 【記事注釈】 (注1) 辻内敬子. 小井土善彦. 坂口俊二. 成熟期女性の冷え症に対する温灸によるセルフケアの効果―レッグウォーマーを対照とした多施設共同ランダム化比較試験―. 日本東洋医学雑誌. 2021; 72 (4): 341-348. 【記事注釈おわり】 前編のおさらい ### 成熟期女性の冷え症に対する温灸によるセルフケアの効果 ―レッグウォーマーを対照とした多施設共同ランダム化比較試験― 「温灸によるセルフケア」として、就寝前に左右の湧泉・三陰交・足三里に長生灸ハードを各2壮使用(そのうち三陰交と足三里の1壮は少煙の長生灸お灸日和を使用)することを指導し、4週間継続した。 ## 論文には出ていないお灸のよさが示された2つのグラフ 辻内先生 今回の研究で得られた有意義な成果を、鍼灸師の皆さんから患者さんへお灸を勧めてもらう時のツールとして活用してほしいと思っています。また、今回参加の先生方に、たくさんのご協力をいただいてリーフレットを作成することが出来ました。皆さんはどの様に活用していきたいと思いますか? 水本先生 私は本当に使えるリーフレットだと思っています。今回の研究ではお灸だけした場合とレッグウォーマーだけした場合の比較でしたが、セルフケアという観点では掛け算でも十分いいわけです。普段からレッグウォーマーをされている方はたくさんおられますが、冷えに対する意識が非常に高い方々なので、お灸をプラスでされてみてはいかがですかと提案してみます。その時に、お灸は身体の中から変えていくことをお伝えしていけますし、お灸ならではの良さをお話しできる、使い勝手のよいツールになると思います。 坂本先生 お灸教室では、「週にどれくらいやったらいいのか」という質問をよくいただいていました。私は「できれば毎日やった方がいいですよ」とお伝えしていましたが、毎日やるのは大変だと思うので、週にどの程度やったらどれくらい効果がある、ということが説明できればいいなと思っていました。今回の研究では、週3日以上セルフケアとしてお灸をしていただき効果が出ましたので、「週3日以上やってください」と自信を持って言えます。毎日できないなら意味がない、とあきらめていた人も「一日おきでもいいのでやってください」とお伝えすることでハードルが下がり「それならできそう」という反応になるので、説明がしやすくなりました。  あとは「お灸は何に効果があるのか」とよく聞かれるので、冷えだけではなくて、その他いろんな症状を改善できる点を示すことができるのは大きいですね。冷え症の方は多くの症状に悩んでいましたが、介入後はすごく変化が出ていましたので。 早坂先生 私は冷え症の程度の経時的な変化(図1)の分析に携わりました。実際に介入を行っていた4週間は、どのような変化をしているかはわからなくて、最終的にデータを入力して解析することでやっと見えてきた結果です。この結果では、お灸群のVAS値が右肩下がりに減少していて、しかも介入が終わった後の1週間でも落ちているということに驚きました。  これまでもお灸のセルフケアをお伝えする際に「一回だけでなく継続してやってほしい」とお伝えしていましたが根拠がありませんでした。これからはこのリーフレットを使って「まずは一か月くらい続けてみて、その前後の違いで効果を感じてみてはどうですか」とデータを示しながら提案できます。 【図1 冷え症の程度の経時的な変化】 折れ線グラフ。 横軸は介入前、1週目、2週目、3週目、4週目、介入終了後。 縦軸は冷え症の程度を数値25mmから45mmまで記載。25mmに近いほど冷え症の程度が小さく、45mmに近いほど冷え症の程度が大きい。 各数値の記載はないため、以下はおおよその値。 介入前、お灸郡の冷え症の程度は39mm、レッグウォーマー郡の冷え症の程度は40mm。 1週目、お灸郡の冷え症の程度は36mm、レッグウォーマー郡の冷え症の程度は33mm。 2週目、お灸郡の冷え症の程度は35.5mm、レッグウォーマー郡の冷え症の程度は38mm。 3週目、お灸郡の冷え症の程度は35mm、レッグウォーマー郡の冷え症の程度は39mm。 4週目、お灸郡の冷え症の程度は32mm、レッグウォーマー郡の冷え症の程度は37mm。 介入終了後、お灸郡の冷え症の程度は29mm、レッグウォーマー郡の冷え症の程度は39mm。 【図1 おわり】 千葉先生 私は苦痛度の変化量を用いて、冷えに併存する症状への影響を検討しました(図2)。その結果、お灸群がどういう項目でレッグウォーマーに比べてより大きな改善ができたのかということがわかりました。これまで冷えの改善に鍼灸を勧めたとき、医療従事者から「レッグウォーマーでもいいんじゃない」「漢方でもいいんじゃない」というような「お灸じゃなくても」と言われることもあったのですが、今回お灸の優れた効果がデータとして出てきました。鍼灸師以外の医療従事者にもご覧いただけるデータとして、鍼灸の効果を知ってもらえる機会になっていってくれるといいなと思います。 【図2 冷えに伴う症状の変化】 棒グラフ。 横軸は冷えに伴う症状として、足の冷え、肩こり、皮膚の乾燥、疲れやすさ、足のむくみ、イライラ感、全身倦怠感、腰痛、胃腸にガスがたまる、ぐっすり眠れない、抑うつ気分、便秘、冷えのぼせ、夜間頻尿、手足のほてりがある。 縦軸は改善度をマイナス6点から1点まで記載。マイナスになるほど改善度が大きい。 各数値の記載はないため、以下はおおよその値。 足の冷えの改善度は、お灸郡マイナス5.2点、レッグウォーマー郡マイナス2.5点。 肩こりの改善度は、お灸郡マイナス5.6点、レッグウォーマー郡マイナス2点。 皮膚の乾燥の改善度は、お灸郡マイナス2.1点、レッグウォーマー郡マイナス1.3点。 疲れやすさの改善度は、お灸郡マイナス3.5点、レッグウォーマー郡マイナス2.5点。 足のむくみの改善度は、お灸郡マイナス5.4点、レッグウォーマー郡マイナス0.5点。 イライラ感の改善度は、お灸郡マイナス1.6点、レッグウォーマー郡マイナス3点。 全身倦怠感の改善度は、お灸郡マイナス2.5点。レッグウォーマー郡マイナス2点。 腰痛の改善度は、お灸郡マイナス3.8点、レッグウォーマー郡マイナス2.1点。 胃腸にガスがたまるの改善度は、お灸郡マイナス2.3点、レッグウォーマー郡マイナス0.8点。 ぐっすり眠れないの改善度は、お灸郡マイナス3.5点、レッグウォーマー郡マイナス0.5点。 抑うつ気分の改善度は、お灸郡マイナス1.9点、レッグウォーマー郡マイナス1.7点。 便秘の改善度は、お灸郡マイナス2点、レッグウォーマー郡マイナス0.2点。 冷えのぼせの改善度は、お灸郡マイナス0.6点、レッグウォーマー郡0点。 夜間頻尿の改善度は、お灸郡マイナス0.4点、レッグウォーマー郡マイナス1.2点。 手足のほてりの改善度は、お灸郡0.2点、レッグウォーマー郡0.1点。 【図2 おわり】 辻内先生 冷え症を訴える人はたくさんの不定愁訴を持っていて、あれもこれも辛いというそうした併存症状の改善にも繋げていけますよね。この冷えの併存症状の15項目のデータは、大いに臨床に活用できる良いデータだと思いました。 井上先生 私はお産の場面で中村先生(注2)の「冷えているとお産には悪影響がある」という研究結果と抱き合わせて使っていきたいと思っています。そしてお灸は冷えに対して効果があり、なおかつ妊婦さんへのお灸は安全であることを示す研究など3〜4つの論文を重ねてお話していきたいと考えています。冷え症を訴える方は、実際には冷え症だけに困っているわけではありません。冷えが原因で体調が悪いと感じている患者さんには積極的にお灸をおすすめして、体調が変わっていくかみていきましょうというお話ができます。セルフケアという意味でもお灸という意味でも、いろいろなことの入り口に使えると思います。リーフレットはかわいいデザインで見やすくて、高そうな紙で(笑)触り心地もいいですし。活用できると思います。 【記事注釈】 (注2) 中村幸代先生. 横浜市立大学医学部看護学科母性看護学教授. 日本冷え症看護/助産研究会代表. 妊婦の冷えと妊娠経過や分娩への研究に取り組む. 【記事注釈おわり】 坂口先生 このリーフレットは論文をベースに作成したものですが、論文には出ていない結果もグラフとして記載できていることが有益だと思います。臨床研究では評価基準を多く設定しないのがルールですので、介入(温灸のセルフケアもしくはレッグウォーマー着用)の前後の結果だけしか提示できていません。しかし実際には注目すべき点は他にもあって、すでに早坂先生と千葉先生がデータを抜き出して示してくださった経時的な変化と苦痛度の変化量の比較によく表れています。これは臨床に生かせる非常に有用なデータです。  先ほど坂本先生が言われていた、お灸をどれくらい続けるべきかという点に関して、お灸は短い期間では効果が出ていないです。通常こういう研究では介入直後に大きく(VAS値が)下がります。ここではレッグウォーマーもすごく下がっていて、これは研究参加者の期待感が影響して下がるのですが、その後ちょっと上がっていったりしますよね。でもお灸はちょっと下がってから我慢の期間が続いて、上がりはしません。そしてその後に下がってくる。論文では介入前後の効果しか見ていませんが、このような経時的変化がわかれば、お灸をどれくらい続けたらいいかということの目安になります。  あとは、冷え症の方は関連した併存症状を3〜4つ持っているという特徴があります。この苦痛度変化量は統計学的に分析したもので、棒グラフにした時にお灸群の方が改善している項目が多い傾向にあることがわかります。足にお灸をしているのに、肩の凝りが改善したり、よい眠りに繋がったり、こういう改善点は大きいですよね。お灸の場合は他の症状も一緒に改善することができる、冷え症を改善すると副次的な効果もあるということを説明するのには非常にインパクトのあるグラフだと思います。研究の成果は本来こういう形で広がるべきですが、論文には出ていない部分でしたので、リーフレットでわかりやすくお伝えできるのは意義があります。 ## 複数の研究結果を統合してエビデンスレベルを上げる 小井土先生 今回の研究が臨床研究の新しいモデルになるんじゃないかというお話をしましたけど、このような研究をさらに広げるために、業団などを巻き込んだりしながら実施することについては、研究者としての坂口先生のお立場からはいかがでしょうか。 坂口先生 そういう時期に来ているのだと思います。たとえば鍼灸学系大学協議会ではSTRICTA ?本普及版作成プロジェクトに取り組んでいます(注3)。そういった協議会や業団と協力していくと、もっとサンプル数の多い研究ができると思います。  今回もサンプル数としてはまだ十分ではなくて、何とか効果を示唆できる最低限のところではありますが、本当は例数をもう少し増やす必要があります。冷え症の場合は、年度によって季節感が変わり、外気温の影響などが考えられますので、例数が集まるまで何年もかけてデータを収集することは難しいです。協議会や団体と協力して短期間で一気にそこに力を注いで試験を行う必要があります。 辻内先生 今回は成熟期の女性を対象に行いましたけど、鍼灸師の先生方は中高年の方の来院が多いということですので、中高年を研究対象に設定すれば例数を増やすことができるかもしれませんね。 【記事注釈】 (注3) 鍼灸学系?学協議会 STRICTA 日本普及版作成プロジェクト(STRICTA-JS)として実施されている。STRICTAとは鍼の臨床試験における鍼治療群や対照群について、最低限記載しなければならない事項を規定している基準をいう。 【記事注釈おわり】 坂口先生 今回は成熟期女性で対象範囲をかなり狭くしていますけれども、中高年の冷えの評価表がある大学の博士論文として承認されまもなく世に出る予定です。それが出れば、中高年でこういう方は冷えになりやすいとか、リスクを分けたりすることができるので、次はそれらを使った臨床研究ができると思います。  今回の研究で示されたエビデンスは、これをベースとしてさらに研究がなされていくのが理想です。ひとつのエビデンスに過ぎないので、これが3つ4つと研究が出てくれば、システマティック・レビューやメタアナリシスなどの形でエビデンスレベルをもうひとつ上げることができます。できればこのグループとは違うところから研究が出て、複数の研究結果を統合することができれば、本当に強いエビデンスを構築することができると思います。  あとは、何を比較対象にするかというところも考えてみたい部分ですね。鍼やお灸の優位性がより強く前に出るように。この研究はもしお灸群の結果がなくレッグウォーマー単体で見たら、よい結果が出たということになります。お灸が加わることによって差が大きく出ますので、比較対象が増えるほど何が優れているかよりはっきりしてくるというのがランダム化比較試験のいいところです。  レッグウォーマーは身に付けるだけの作業的なセルフケアですが、お灸は自分の体に触れて、お灸をする時間は一日を振り返るなど自分時間を確保することができ、自身のお灸の熱さに対する感受性の変化やツボを触ったときの感覚の変化などを感じてもらうことが同時に行われます。それがもともとのセルフケア、養生の基本でもあると思います。お灸のそういったところが、レッグウォーマーとの差が出た一因になったのではないかと思います。 ## 自分の健康を自分で管理することが主流 そのアイデアと確認のために鍼灸院がある 辻内先生 セルフケアを指導する際に、灸の安全な使用方法とその人に合ったツボ処方をお伝えするのは、きゅう師にしかできない役割です。研究では標準的な3つのツボを使いましたが、それぞれの証に応じて行うというのも、次の研究のテーマになりますよね。  最後にお灸のセルフケアをお伝えするために、大事な視点としてどういったことが考えられますか。 千葉先生 お灸をやってみて「いいな」と思った方はちゃんと続けてくださる感じがあるので、変わったところを意識化していただけるような声かけができればいいなと思います。 小井土先生 それはすごく大事なことですよね。たとえば冷えが改善されると同時に色んなところが変わっている、腰痛や月経痛を改善する目的で治療しても、実は肩こりが軽くなっていたり、睡眠が変わっていたりするというようなことは臨床ではしばしば経験します。しかし、聞き取らないと治療家もわからないし、患者さんもそれがお灸の効果だとは思いませんので、鍼灸がからだに影響を与えて全身が変わっていくことを施術者側が再認識しながら、丁寧に患者さんにお伝えして共有できるようにしていくことが大事だと私も思います。 水本先生 当院ではツボを取ってここにお灸をしてくださいと患者さんに指導していますが、健康に使う費用対効果はセルフケアを入れたほうが患者さんの負担がすごく減るなと感じています。当院の患者さんはあまり頻回に来られない方が多いのですが、治療に来ていない期間のことを伺うと、ここにこういう風にお灸したらこういう風によかったんだよって逆に教えてくださるんです。それでセルフケアすることが習慣になります。自分の健康を自分で管理することが主流で、そのアイデアと確認のために鍼灸室に来てもらうというのが当院の役割なのかなと、そんな風に考えが変わってきつつあります。 早坂先生 やっぱりお灸ってすごいですし、最初はとっつきにくかったり敷居が高かったりするかもしれないですけど、1回このぬくもりとここちよさ、じわじわ変わってくる感覚をたくさんの人に体験してほしいですし手に取ってほしい。それを指導できる鍼灸師がたくさんいて、これからコロナ禍の中でも関わりを持ちながら広がってくれたらうれしいです。 坂本先生 セルフケアをされているうちにツボを探すのがだんだん上手になってくる方もいらっしゃいます。何となくここをやってみたらここが楽になったとか、からだの地図ができるように、治療ポイントを自分で探せるようになってくるんですよね。そうなってくると、私たちにとっては治療に来られた時にラクですし、患者さんは治療されるのも自分でやるのも好きになって、すごく相乗効果がある。全部先生におまかせという形よりは、自分でちゃんとからだをみて、触って変化を楽しむ、自分でわかるという“楽しみ”までができてくるといいなと思います。 井上先生 私は逆子の人にお灸をおすすめした時にちょっと面倒くさそうな反応をされると「本当は私も毎日治療院に来てほしいけど、毎日じゃお金もかかるし時間もないでしょう」って言うと「そっか、セルフだと安く済むんだ」って積極的にやってくれるようになりますので(笑)おトク感を売り出していっています。 小井土先生 社会的には医療費が増えてセルフケアの必要性が注目されてきていますが、もともと鍼灸治療の中には養生やセルフケアの視点がありました。それをもう一度見直していきたいですよね。鍼灸師はセルフケアをするとこういうことが起きるって現場では知っていたはずです。臨床の中で患者さんが教えてくれることが研究成果として出てきた今回の研究は、記念すべきことだなと思います。 辻内先生 「お灸ってすごい」のお灸ですからね。今後益々、大勢の人に利用してもらえるといいなと思います。 # 2. リサーチ!わたしの鍼灸治療 〜直接灸 編〜 水谷 潤治 先生 1983年にカナダへ移住し、治療院を開業された水谷先生。お灸の風習がない国で直接灸の施術を行ってこられました。現地の人に受け入れてもらえるような施術の工夫や、患者さんの反応について、そして先生が主幹となって発行されている「北米東洋医学誌(NAJOM)」を通じた世界中の鍼灸師との交流について、お話を聞かせていただきました。 Profile. 1983年に日本鍼灸理療専門学校を卒業し、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の免許を取得。同年にカナダへ移住、トロントの吉川指圧学校で教師を務める。1992年にバンクーバーに移りMizutani Therapy Inc.を開業。1994年より『北米東洋医学誌(以下、NAJOM)』の主幹を務め、2022年11月に最新号第86号を刊行。 ## 直接灸を気持ちよく受けてもらうために ―水谷先生は1992年からカナダで治療院を開業されていますが、現地の方々にも直接灸の治療をされているのでしょうか。  治療院には日本人の患者さんと外国人の患者さんが半々くらいでいらっしゃいます。カナダに行った当時は誰もお灸をしていませんでしたが、私は現地の方々にも直接灸をしています。  ポイントは熱くないとか、やけどを作らないような方法でお灸をして、気持ちよく受けてもらうことです。私はあくまでも直接灸で治療をしたかったので、紫雲膏と竹筒を使って柔らかい熱で効果が出るように施術しています。 ―現地の方々のお灸に対する反応はどのようなものでしょうか。  日本人はお灸に対して「熱いものだ」「あとが残る」などの悪いイメージを持っていますが、現地の方はお灸のことをまったく知らないので、悪いイメージを持っていません。では、何も知らない状態の患者さんに、どうやってお灸を説明して許可をもらうかということですが、あまり詳しいことは説明せずにやってしまうんですね(笑)。  説明の時に「(もぐさを)燃やす」とか「(皮膚を)火傷させる」というような単語を使いません。「どうして皮膚の上に火傷を作るんだ」ということになって、話が長くなってしまったり答えるのが難しくなってしまうからです。「お灸は一種のヒートセラピーです」「ツボにちょっとした熱を与えるものです」と表現して、嫌だったら途中で止めるからと断りを入れて、とにかくひとつやらせてもらうのです。 ―それが、紫雲膏と竹筒を使ったやさしい直接灸ですね。  まずは小さい艾?からはじめます。肌の上に薄く塗った紫雲膏の上に施灸します。それで、艾?が半分ぐらい燃えたら、竹筒をかぶせます。そうすると中で火がじわっと消えるんです。  背中など見えないところにすえると、患者さんから「今、何をやったんだ?」と聞かれます。それで、何をどう使ったのか一連の手順を説明しながら、目の前でデモンストレーションをします。すると納得されて「悪くないよ」と言われるので、続けてやっていきます。リズム良く丁寧にやると、気持ちよくなっていって、痛みが取れてしまいます。最後には「これなら大丈夫だから、またやってほしい」と。 ―現地の方々に受け入れてもらえるような直接灸のやり方を模索した結果、竹筒を使う方法にたどりつかれたのですね。  竹筒を最初に使い始めたのは深谷伊三郎先生です。竹筒を知るまでは、私はすえたところの周りを押さえたり、艾?をつまんで途中で火を消したりして、どうにか「熱い!」と言われないようなお灸をしようとしていました。本を読んで深谷先生の竹筒を使うお灸を知り、深谷先生の弟子だった入江靖二先生をたずねて、教えていただきました。  今使っている竹筒は私が使いやすいように改良したもので、深谷先生のオリジナルではありません。竹筒の端から節までの距離を2.5センチくらいまで短くしていますので、酸素が無くなり火はスッと早く消えます。逆は長めにしていて、酸素が多いので長く燃え、熱がじわ〜っと入り熱いです。使い分けられるようにしています。 ―治療の中ではお灸のどのような効果を期待して、どのように活用しているのでしょうか。  私は最初に鍼で「地ならし」をします。速い鍼で地ならしをして、アプローチすべきポイントがわかりやすくなるようにノイズを取り払うような感じで、全身の状態を整えます。その次に、痛いところに熱でアプローチをするという形で、お灸をしていきます。  竹筒を使ったお灸はふつうの直接灸とは全然感触が違うので、効き方も違います。柔らかい熱を与えるので、実証を緩め、陽気を発散させることができます。熱があるところに、3か所くらいパパっと素早く柔らかい熱を与えると、熱が発散していきます。  逆に虚証の方、血液が足りなかったり循環や代謝が悪い人には、多壮灸をしてどんどん熱を入れていきます。 ―核心はお灸でアプローチされるのですね。  お灸は皮膚に熱を与えて小さいやけど、つまり急性の皮膚炎を作ります。体を傷つけることによって、リアクションを期待しているわけですね。体を傷つけたら確実に免疫細胞は動きます。  NAJOMの83号に掲載されていますが、九州看護福祉大学大学院の塚本紀之先生は、鍼やお灸の刺激によって細胞から分泌される物質についてPCR法により検討を行っておられます。これによると、免疫系を調節するために分泌されるサイトカインの一種であるインターフェロンやインターロイキンが、鍼よりもお灸の後の方が増大しているということです。ですから免疫を増強するためにはお灸が一番だと私は考えています。  あとは鍼もお灸も毛細血管が開いて血流が良くなります。そうすると患者さんはとてもリラックスできたと言って、お灸の効果を納得されますね。それでまた来ます、となっていきます。 ## 世界中の鍼灸師が水谷先生から学んだ直接灸 ―先生がカナダに移住された当時は、誰もお灸をしていなかったということですが、最近はどうでしょうか。  海外の鍼灸師は伝統中医学(以下、TCM: Traditional Chinese Medicine)スクールで勉強をしますが、TCMスクールではお灸をやりません。言葉は知っていても、すえることはしない。ですから海外の鍼灸師はお灸のことをほとんど知らないのです。  1994年にNAJOMを発行しはじめて、有志の先生方から色々な記事を集めたのですが、誰もお灸の記事を書いてくれませんでした。それで、しかたなく私が自身のお灸のやり方について書きはじめたところ、4〜5年経った頃にアメリカの読者から教えてほしいと言われて。そこから世界中でお灸を教えるワークショップを開催しました。アメリカで20回以上、ヨーロッパではドイツ、スイス、イギリス、スペイン、ポルトガル、クロアチア。それ以外にも、ブラジルやニカラグア、オーストラリアなどで教えてきました。 ―NAJOMをきっかけにお灸に興味を持って、世界各国でお灸を学びたいという鍼灸師が出てきたのですね。  私の家に泊まり込んで、一緒に治療をして覚えていった人もいます。上手になった方たちは、その地で他の人に教えるようになって、お灸が広まっています。竹筒は私がせっせと作って送っています(笑)。 ―ワークショップではどのように教えておられるのでしょうか?  2枚の板の間にもぐさをはさんですり合わせ、ひも状に伸ばしたものを作る方法を教えます。これなら誰でも簡単にできます。私も柔らかいお灸をたくさんすえたいときは、このひもを50本くらい作っておいて、次から次へと使います。そのほうが早いですからね。  ワークショップでは竹筒ともぐさ、線香を持つそれぞれの手の動きを練習します。ひもをちぎって、艾?を置いて、火をつけて、竹筒で押す。  この流れをリズムよく、2〜3秒間隔でできるように、二人一組で練習してもらいます。柔らかい、リズムのいいお灸ができると、(施術を受けている人は)緊張がゆるんでたいがい寝てしまいます。上手にできると、それくらい気持ちがいいんです。 ## 回し読みのつもりだったNAJOMが、海外の鍼灸師と日本鍼灸の交流を媒介する存在へ ―NAJOMは日本国外の鍼灸師たちにとって貴重な情報源になっているのではないでしょうか。  NAJOMの創刊当初の目的は、海外でも日本鍼灸の勉強をしたい、ということでした。鍼灸は変わっていくものですから、10年経てば新しい治療法が出てきますし、科学的な研究はずいぶん進化しています。そういった情報を取り入れるためには、情報誌みたいなものが必要だということではじまりました。  はじめは34人の在外日本人だけの小さなグループでした。3年くらいで潰れるだろうなと思っていたんです。だから、団体としての登録もせず、みんなで回し読みのつもりでやっていたのですが、現在の定期購読者は500人ぐらいになっています。 ―NAJOMは年3回発行され、すべての記事の英語版と日本語版が同時に掲載されています。書き手も日本人だけでなく、世界各国から寄稿されていますね。毎号の企画や翻訳はどのように手配されているのでしょうか?  みんなボランティアでやっています。日本語の編集とレイアウトは私がやっています。翻訳は20人くらいボランティアがいて、時間のある限りということで依頼しているので、常に足りないです。翻訳スタッフの手配や発送、会計報告も私がやっています。  毎号の企画には私はタッチしていません。英語の編集を任せているシェリル・コールという人に託しています。外国人の目と頭で興味のあるものを出してもらうようにしています。彼女は私が指圧を教えていた時の学校の生徒で、NAJOMに関わっているうちに影響を受け、鍼灸師の免許を取りました。彼女がいないとNAJOMは出せません。私の半身のような存在ですね。 ―最後に、NAJOMのこれからについて、お聞かせください。  NAJOMを続けていくのは、後継者問題や経費など厳しい部分もあるのですが、28年やったのでできる限り続けたいなと考えています。これまでNAJOMが契機となったものとしてはmoxafrica(モクサフリカ)の活動がありますし、NAJOMで知り合った日本の鍼灸師が海外に出て活動をはじめる、ということもありました。NAJOMがひとつの媒介となって、世界中でこんな治療がされているんだ、こんなことを考えている鍼灸師がいるんだという、ヒントになるような情報を、みんなで共有できるのがいいですよね。  これからは、最先端の研究や情報を世界に発信していかないといけないと思います。だから若手をどんどん紹介したいですね。  NAJOMによってお灸をローカルで教える人が出てきています。ニューヨークの学校で教え始めたとか、ポートランドやシカゴで教え始めたと聞いています。お灸は海外ではまだマイナーですけど、これからどんどん広まると思っています。 # 3. Closeup! 治療院 もぐさんぽ ―第4回― 唯内 喜史 先生 2004年 国際医学技術専門学校理学療法学科 卒 同年   理学療法士資格取得 2010年 トライデントスポーツ医療科学専門学校はりきゅう学科 卒  同年   はり師・きゅう師資格取得 鍼灸Tadauchi院長 2021年〜 〈職歴〉 介護老人保健施設ウエルネスきっこ 医療法人須田整形外科 医療法人孝友会孝友クリニック 医療法人ひじかた整形外科 ただうち出張鍼灸治療院 理学療法士として整形外科での勤務経験を持つ唯内先生。西洋医学と東洋医学の両方の視点から病態をとらえアプローチしていく施術の中で、お灸をどのように用いているのか、お話を伺いました。 ## 患者さんにとって西洋医学・東洋医学それぞれの必要なところを中立的に考え、取りいれたい ―唯内先生は理学療法士と鍼灸師の資格をお持ちですが、どのような経緯で2つの資格を取得されたのでしょうか?  高校生の頃、硬式野球に力を入れていたのですが、腰痛で整形外科や接骨院、整体を転々としていた時期があり、医療職に興味を持ったのがはじまりです。高校卒業後、医療の道へ進むか野球を続けるか迷った末、野球を続けようと大学に進学しました。しかし医療の道をあきらめ切れず、大学を退学し専門学校の理学療法学科へ進学して理学療法士資格を取りました。  卒業後に勤務した介護老人保健施設で、高齢者の方々から「鍼灸はいい」という話を聞く機会がありました。私自身は鍼灸を受けた経験はなかったのですが、それがきっかけで興味を持ちました。私の周りの理学療法士の中には東洋医学や鍼灸を非科学的で何か怪しいものと考える人もいましたが、現に目の前の高齢者の方々は口々に「鍼灸はいい」とおっしゃっている。鍼灸のこと、東洋医学のことを知らないのに否定はできない、鍼灸にはきっと何かあるはずだと思ったので、色々と調べてみました。その時にスポーツ分野で活躍されている鍼灸師もいることを知りました。私は医療職としていつかスポーツ分野にも携わりたいと考えていたので、引き出しを増やす目的で鍼灸を学ぶ道へ進みました。 ―理学療法士になられてから鍼灸を学ばれたのですね。実際に勉強してみて、東洋医学や鍼灸に対する考えはどのように変わったのでしょうか。  はじめは戸惑いましたね。世界観が全く違うので、理解できないことが多かったです。理学療法士として西洋医学的な判断基準である科学的な根拠の有無や客観的な数値等を土台にしてきたので、東洋医学的な概念を受け入れるのが大変でした。  今は、東洋医学的な思想や考え方も大切にしています。そういったもので救われる方が想像以上に多いことを経験してきました。むしろ科学的な考え方にとらわれすぎて、困っている方もすくなくないというのが開業して感じたことです。だからと言って、西洋医学が駄目だというわけではありません。西洋医学と東洋医学の、それぞれできることできないこと、得意不得意を把握して、目の前の患者さんに何が必要なのかを中立的に考えたいと思っています。 ―開業された現在、施術の主な内容は鍼灸なのでしょうか?  理学療法と鍼灸の「いいとこ取り」と言うのでしょうか(笑)。鍼灸施術をメインに今まで理学療法士として培ってきた技術や知識をエッセンスとして加えている、という感じです。  当院の患者さんは首や肩のこり、肩の痛み、腰痛の方が多いです。ただ、今は幅広く運動器疾患以外の方もみえますので、参考書を読んだり、臨床の中で患者さんから学ばせていただいたり、試行錯誤をしながら施術に取り組んでいます。 ## 硬くなった組織や血流をエコーで観察し、病態の考察に活用 ―特徴として、治療院にエコーを導入されている点がありますが、どのように活用されているのでしょうか?  エコーでは硬い組織が白く映ります。たとえば腰部の筋を左右で見比べて、左に比べて右は筋や周りの組織が白く映る、ということがあれば、右の筋や周りの組織が何らかの理由で硬くなってしまっているのではないか、と推測することができます。またドップラーという血流を可視化するモードで見て、本来血流のないところに血流の反応があれば炎症反応が起きているのではないかと推測できます。鍼灸師は診断することは認められていないので、鍼灸の適応を見極めたり、病態を考察するのに役立てています。  鍼灸師の中には、手の感覚を大事にされ、機械に頼ることに抵抗を感じる方もおられると思います。しかし解剖学的な構造は人それぞれで多少なりとも異なりますし、破格(注1)の方もみえます。絶対はない以上、リスクを減らす目的としてもエコーを使用しています。 【記事注釈】 (注1) 解剖学における学術用語で「正常範囲内の形態の変異」を意味する。血管や神経、筋肉などの位置関係が通常と異なる例などが挙げられる。 【記事注釈おわり】 ### ほかにもある!エコーの活用法 ・施術後の経過をエコーで見ることもあります。治療前の状態を記録することができるので、何度か治療した後の状態と見比べて、効果判定に用いることができます。 ・該当する筋肉が動かせているかどうか、ということも、エコーで見て確認できます。こうやって意識して動かせば、こうやって動くんだ、というフィードバックが得られます。 ・刺鍼する部位をエコーで見て、血管や神経を避けて鍼を打ちます、という説明をすると、患者さんが安心されます。 ## 患者さんの負担が少なく済む、お灸を積極的に選ぶ ―お灸はどのように使用されているのでしょうか。  ほとんどの方の施術でお灸を使います。お灸に対する患者さんの反応が良いので、私としては積極的にお灸を使っていきたいと思っています。お灸をするタイミングはいろいろで、緊張している方には最初にお灸をして、リラックスしてきたところに鍼をしたり、慣れてきたら鍼と同時にお灸をしたり、臨機応変に施術しています。  お灸の魅力の一つにアロマ効果があげられます。独特のにおいだと思いますが、患者さんは「落ち着く匂いですね」とか「この匂い好きです」「懐かしい匂いがします」というふうに、好印象を持たれることが多いです。また、経験のない方はお灸と聞くと最初は身構えてしまいがちですが、実際に体験されると「芯まで温まるような感じがして良い」とか「すごくリラックスできた」とよくおっしゃられます。 ―どんなお灸を使用されていますか?  今は「長生灸」をメインで使っています。はじめての方には一番温度の低いソフトからはじめています。基本的にはソフトとライトを使っていますが、中には全然効かないという人もいるので、ソフト、ライト、ハードを使い分けています。ハードは「あつい」と言われたらすぐに取りはずす使い方です。高齢者で刺激を求められる方にはハードを使うことが多いですね。糖尿病の方や感覚が鈍くなってしまっている方には特に火傷に気をつけて使っています。  他にも隔物灸をしますが、使用するもぐさは強めの刺激を目的とした「並温灸」と香りや温かさを目的とした「極上温灸」を使い分けています。色々と試してみた結果、「極上温灸」の方が温感がマイルドで優しい印象です。 ―お灸の効果が感じられた事例があればお聞かせください。  膝を曲げると違和感がある患者さんで、膝のお皿の下にある膝蓋下脂肪体という組織が硬かったので、そこを狙ってお灸をしました。他に特に何もせず、膝蓋下脂肪体の柔軟性が改善し膝がスムーズに動くようになったので、お灸が功を奏したと思っています。  腰痛の患者さんで椎間関節に原因があると推測し、その関節を狙ってお灸をすえたところ、楽に痛みなく動けるようになった、ということもありました。そうした事例を通してお灸の効果を実感していますね。 ―鍼灸の施術をはじめられた当初から、お灸は使われていたのでしょうか?  当初は徒手療法プラスアルファの手技の一つとして鍼をメインに使っていました。その後、お灸を必要に応じて使用すると患者さんの反応が良いことに気づき、徐々に取り入れていきました。鍼と灸、それぞれに良さがあり比べることではないと思いますが、血流を良くしたい、緩めたいなどの目的が同じ場合には、お灸を使うことが多いです。鍼は侵害刺激でもあるので、刺さずに済むお灸の方が患者さんの負担が少ないのかな、と。  それからお灸を優先的に使う例として、肩を動かすと痛いという症状の一因に肩峰下滑液包の炎症やその周りの組織が硬くなっている、ということがあります。ここはブスっと鍼を刺したくない部位なのでお灸でアプローチすることが多いです。他にも鍼を刺すのは避けたい部位の柔軟性を改善したい時は、お灸がファーストチョイスになりますね。  あとは、熱を与えたい、冷えが原因で起こっている症状には率先してお灸を選びます。 ## お灸で結合組織の柔軟性の改善を狙う ―どのような作用を期待して、お灸を用いていますか。  お灸の温熱刺激やアロマ効果で、身心の緊張を緩めることができます。鍼でも緩めることはできますが、お灸は鍼より広範囲に作用しているととらえています。鍼はより深部の組織へのアプローチや、ピンポイントで狙いたいときに適しているというイメージです。  例えば斜角筋症候群という病態で、首にある斜角筋群の間隙から腕の方に走行している神経が絞扼(注2) などのトラブルを起こしており、肩から腕にかけて痛みや痺れがあるという患者さん。この場合は斜角筋に鍼を打ったりするのですが、その前に周囲の結合組織を緩ませる目的でお灸をします。ピンポイントで狙いたい筋には鍼で刺激を与えたいのですが、周囲にある結合組織は広範囲に及ぶので、お灸で柔軟性の改善を図ります。筋膜を狙って鍼を打つこともあるので、結合組織には必ずお灸を使うかというと、一概には言えませんが。  私はエコーを使ってファシア(注3) と言われる組織をターゲットにして施術することが多いです。理学療法士として働いている時から、ファシアに対するアプローチにより良好な結果が得られるという印象を持っていました。筋を緩めることだけを目的とせず、ファシアの状態も含めて症状の原因を探っていき、鍼やお灸で複合的にアプローチしていくことが大切だと考えています。 ―理学療法的、解剖学的なお考えをもとに、お灸を活用されていることがわかりました。最後にこれから新たに取り組みたいことなどありましたら、教えてください。  今年からお灸のワークショップをはじめました。今後定期的に開催していきたいと思っています。東洋医学やお灸を使ったセルフケアが、もっと日常生活に当たり前のものとして取り入れてもらえたらいいなと思います。  これまで理学療法士として西洋医学的な観点で臨床経験を積んできましたが、東洋医学的に考えると腑に落ちることも増えてきました。健康に関する考え方も徐々に変わってきています。今は薬に頼り過ぎず、元々身体に備わっている自然治癒の力を活かして健康になることが大事だと考えています。  目の前の不調や痛みに固執して、一人ひとりの本来あるべき暮らしの中の豊かさがないがしろにされてしまうのはもったいないと感じます。不調や痛みを受け止め和らげながら、その先の暮らしの豊かさ、仕事であったり、趣味であったり、自分のやりたい事をちゃんとできるようにしていく事がゴール。そんな視点が大事だと思っています。  私の施術は患者さんが治ろうとする力を引き出す、そのためのちょっとしたきっかけ、というスタンスです。依存してほしくはないんですね。自分の身体に目を向けて、自分で治していく。不調がなくなった後に、いい状態を保って過ごしていけるかどうかは患者さん次第です。そのためにも日々の養生の中で、お灸で身体をケアすることの大切さを伝えていきたいと思っています。 【記事注釈】 (注2) 組織や血管などが圧迫される状態。 (注3) 全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の網目状組織構造。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム。(出典:一般社団法人日本整形内科学研究会HP) 【記事注釈おわり】 # 4. 山正ニュース ## 01 第17回公益社団法人日本鍼灸師会全国大会in愛知の企業展示に参加 [ 2022年12月3〜4日・ウインクあいち 愛知県産業労働センターにて ] 当日は良いお天気で、会場は現地参加された先生方の活気であふれました。会場がいくつかの階に分かれましたが、わざわざ企業展示の部屋に足をお運びいただいた先生方が多く、各メーカー担当者との商談・歓談があちこちで行われ、盛り上がっていました。弊社ブースでは恒例の「もぐさん」ぬいぐるみが当たるサイコロチャレンジを開催し、会場のあちこちでもぐさんを連れ歩きながら学会発表に参加される先生方が見られました。 ## 02 オンライン工場見学 東日本医療専門学校鍼灸スポーツ科学科様 [ 2022年12月 ]  昨年に続いて2回目のご要望をいただき、オンライン工場見学を鍼灸科の3年生の授業にて実施させていただきました。もぐさが精製されていくしくみや、製造機械について理解を深めていただけるような経験になれば幸いです。東北地方から弊社に訪問するのは大変ですが、オンラインの機会を利用して繋がってくださり、とてもうれしく思います。見学時は大きなもぐさんもちゃっかり画面の向こうで見守ってくれていたようですね。最後の集合写真ではもぐさんポーズ?も取ってくださいました! ## 03 韓医学を専攻する留学生に向けた講義を実施 [ 2023年1月・日本薬科大学 ]  日本薬科大学様からご依頼をいただき、漢方・日本文化研修のために来日していた韓国の慶熙大学校韓医学部の学生向けにお灸の出張授業を行いました。授業は日本語で行い同時通訳をしてもらいましたが、韓国語での挨拶とハングルを記載したスライドを用意したところ、とても喜んでくださいました。慶熙大学校といえば韓国を代表する総合大学であり東洋医学系の研究・教育が行われています。韓医学では生薬だけでなく鍼灸による臨床も重要視されるということで、今回の講義のご要望をいただきました。もぐさの見本や商品サンプルをご覧いただくと、次々に的を射た質問が寄せられ、担当者もたじたじでした。日本の独特なお灸文化や商品への理解を深めていただける機会になったのではないかと思います。 ## もぐさん特別潜入レポ 今冬の弊社工場でのもぐさ製造は、新入社員も研修の一環として作業を体験しました。その研修にもぐさんが突撃取材!初めてもぐさ製造を体験したスタッフの感想や、工場の様子などをレポートします。 ### 冬でも汗だく!?  工場に足を踏み入れると、すぐにムワッとした熱気、ヨモギの濃密な香りに全身を包まれた!工場では集塵機など機械が稼働する重低音に加え、臼や唐箕が回転する音が規則的に鳴っている。そんな中、スタッフは黙々と作業をしていた。  1番臼でヨモギを投入する作業を担当していたスタッフに話を聞くと、「作業中とにかく暑かった」。乾燥室が稼働している間は、乾燥室内の熱気が伝わり、工場内は蒸し風呂のようになるのである!無論、乾燥室に隣接した1番臼での作業は、もっとも過酷となる…。なお、乾燥後のよもぎは空気中の水分を吸わないよう、その日のうちに石臼での作業を終える必要があるそうだ。 ### 三半規管と腕が鍛えられる石臼作業  石臼の投入口に乾燥よもぎを投入していくときは、少しずつ投入するのがコツだ。2番臼と3番臼での作業を体験したスタッフは、「回転する投入口をずっと見つめているので、目が回ってきます」と苦笑した。  山正の工場には石臼が3つあり、「1番臼」「2番臼」「3番臼」と呼ばれ、原則として1→2→3と順番にかける。臼の周りはもぐさの粉塵が舞い上がり、よもぎの独特なにおいが立ち込める。  「臼から出てくるもぐさは、フワフワしていて軽いように見えて、実は意外と重いんです」。半日間、もぐさをすくって石臼に入れて、を繰り返した結果、スタッフは腕がすこし筋肉痛になってしまったという。 ### ハプニング発生!  その日のうちに石臼を掛けてしまわないといけないのに、なかなか石臼作業が進まないことがあった。よく見ると「1番臼」から出てくるもぐさの量が少なく、臼の中に乾燥よもぎがたまってしまっている!すぐに臼の上下間の調整など対策をとり事なきを得た。石臼の目(溝)や石同士が擦り合わさる間隔など、計算が狂えば作業効率が落ちてしまうのが石臼の難しいところだ。  各設備のメンテナンス・修理や作業効率など、工場を円滑に稼働させるために、気を配らなければならない事柄は枚挙にいとまがない。 ### 本格的な防塵マスクを導入  もぐさ製造ではもぐさの粉が振りかかり、全身が粉まみれになってしまう。コロナ禍でマスク生活に慣れた我々であるが、普通のマスクではもぐさの粉塵は防ぎきれない。花粉症対策よりも入念に、全身をカバーして臨む必要があるのだ!  そこで今季は新たに「吸収缶(キャニスター)」のついた本格的なマスクが導入された。吸収缶の中には粉塵を除去するフィルターが詰まっており、吸った空気はフィルターを通過してマスクの中に入るため、清浄な空気が吸えるという代物だ。特殊戦闘員のような見た目になったが彼はもぐさ製造工員である。  もぐさ製造は楽なことばかりではないが、工程を経るごとに色が明るく、ふわふわになっていくもぐさを見るのは、純粋に見ていておもしろい現象だ。今回の記事により、工場見学や映像資料等ではお伝えできない、現場のリアルな様子がお分かりいただけたのではなかろうか。少しでももぐさ製造工場の臨場感を感じていただければ幸いである! # 5. もぐさんのほっこりラジオ Episode.1 お灸のふるさと 編集部 新コーナーです!お灸や弊社にまつわる四方山話をゆる〜くお届けしたいと思います。 もぐさん、よろしくお願いしますよ。 もぐさん お灸広報担当として、たのしくお伝えできればと思います!よろしくお願いします(ぺこり)。 編集部 初回なので弊社のある滋賀県について幅広くお話していきたいと思います。 県外の方にとって滋賀県ってどういう印象なんでしょうね? もぐさん まずは琵琶湖じゃないかな。琵琶湖県とか言われちゃったりするけど、県民にとっても琵琶湖は大きなアイデンティティのひとつだよ。 編集部 正直、県の形より琵琶湖の形のほうが見慣れています。 もぐさん 確かに!(笑) そんな滋賀県の中でも、地域によって結構特色や文化圏が違っておもしろいんだよね。 琵琶湖との位置関係で、湖西・湖北・湖東・・・っていくつかの地域に分けられるんだ。 編集部 湖北地域はけっこう北にあるんですよね。滋賀県の中でも特に雪が多い地方といわれています。 もぐさん 実は積雪の観測記録の世界一は伊吹山(1927年、1182cm)。 でも雪国かと思えば、最近は暖冬だと全然降らない年もあります。 雪が積もるか積もらないか、ビミョ〜な位置なのかなあ。 編集部 ここ10年ほどは暖冬が続いていましたが、最近も(2021年12月27日)彦根市で積雪73センチを記録するような大雪が降って、びっくりしました。 もぐさん 山正も大変だったよ。物流が止まって商品が出荷できず、ご迷惑をおかけしてしまいました。全国ニュースなどで「滋賀県北部で大雪」って見かけたら、山正のあるところが大変なんだなって思ってほしいです(笑)。 【写真注釈】 (写真1) 滋賀県湖北の地図。 山正があるのは「湖北」。 東海道新幹線や名神高速道路が「米原」というところで北行きと南行きに分かれるので、北行きに進むと山正のある「長浜市」に行ける。 京都や大阪で用事のある人は、ここで南に進んでしまうので、あまり聞き覚えがないかもしれない。 (写真2) 2021年の大雪の時の写真。もぐさんのからだが雪に埋もれている。 (写真3) 駐車場の雪をどけるために弊社で所有しているホイールローダー。 (写真4) 弊社の周辺道路や敷地内は、積雪や凍結を防ぐために地下水を散水するための設備が埋め込まれている。雪国ならではの光景。 【写真注釈おわり】 編集部 そんな雪の話題と切ってもきれない土地で、弊社や「日本一黄金山」「長生灸」が生まれました。 もぐさん 寒い地域はヨモギが大きく育つこともあって、もぐさ作りに適した気候だったのだと思うよ。僕たちもぐさ製造業者にとって、ヨモギは無くてはならない大切な原材料だからね。 編集部 ヨモギは意外と個体差があるんですよね。 もぐさん そうそう。ヨモギはいろんなところで見つけることができるけど、葉っぱの大きさや形は本当にバラバラ。 葉の大きいヨモギになると、成人男性の掌くらい大きいものもあるよ! 編集部 それは大きなヨモギですね! 読者のみなさんの地域ではどんなヨモギが見つかるのでしょうか? ぜひ色々な場所で探してみてほしいなと思います。 もぐさん もし巨大な毛深い新種のヨモギが見つかったら、 こっそり教えてほしいです! 編集部 業務用にもぐさを大量生産するとなると、ものすごい量が必要になりますからね。 もぐさん できるだけ葉っぱの大きな毛の多いヨモギをたくさん集めることで、工数や歩留まり率を少しでも改善したいと考えるのは、もぐさメーカーならではの発想だね。 編集部 ヨモギには、雪との関係以外にも湖北地方と深いゆかりがあります。 それが皆さんもご存じの伊吹山との関係です。 もぐさん 江戸時代から「伊吹もぐさ」は一大ブランドとして売り出されてきました。 実際に伊吹山のふもとは山正以外にも多くのお灸メーカーが生まれたよ。いわばお灸のふるさとだね。 編集部 家庭の医学としてのお灸の出番が減ってしまい、廃業してしまったメーカーもありますが、お灸メーカーの老舗のルーツを辿ると必ず滋賀県に行き着きます。 もぐさん 今も山正がお灸の商売を継続できているのは、こうした滋賀県や湖北地方という土地の歴史や文化背景に依るところも大きいと思う。 だからこそ、地域とのつながりも大切にしていきたいよね。 編集部 そうですね。先生方にはもぐさを通じて滋賀県とのご縁を感じていただければと思います。 最後に食いしん坊のもぐさんに滋賀県湖北地方の郷土食をおすすめしてもらって、しめくくりたいと思います(笑)。 もぐさん 突然の話題転換すぎる!ぼくのおすすめはズバリ「鯖そうめん」です。 香ばしく焼きあげた焼き鯖とそうめんを甘辛く炊き合わせた料理だよ。 焼き鯖の香ばしさと鯖のウマみがしみこんだそうめんが尊い。 山椒をピリリときかせた絶品です!ウッお腹がへってきた・・・ 編集部 読者の先生方にも、機会があればぜひご賞味いただきたい湖北の味ですね。(了) 【写真注釈】 (写真5)日本一黄金山の商品写真。 (写真6) 葉が細いヨモギ。 (写真7) 手のひらと比較したヨモギの写真。 (写真8) 新幹線から見える伊吹山。 (写真9) 鯖そうめんの写真。若狭湾の海産物を京都に運ぶ途上にある長浜は、鯖を入手できる機会に恵まれていたという。(写真提供:滋賀県) 【写真注釈おわり】 # 6. 読者投稿コーナー すえとこひろば 2023 SPRING 読者のみなさんからいただいた投稿や ご意見・ご感想を紹介します。 ## 最高の患者様 ### おかえりなさい、患者さん  コロナ禍で在宅になって自宅周辺で鍼灸院を探されていたAさん。3週間に一回のペースで欠かさず来てくださっていたのですが、1年前に突然の海外転勤で「卒業」されていきました。もう来てくれることもないかな、と思っていたのですが、最近やっと1年ぶりに帰国して、真っ先にうちの鍼灸院の予約を問い合わせてくれました。「1年分のコリを貯めて来ちゃいました」と言って、1年分の海外経験あれこれを楽しく話してくれたのが印象的でした。はり・きゅう・もみりょうじroom@Ryogoku/稲垣明子先生 編集部 ご無沙汰だった患者さんが戻ってきてくださるのはうれしいですね。コリを取るだけでなく、お話を楽しく聞いてくださる先生とのお時間が、「また来たい」と思える理由だったのではないでしょうか?先生とAさんの絆が感じられます。 ### 思わずガッツポーズ?  便秘症の方。施灸中にお腹がグルグル音を立てて動き出し効果てきめんで毎回患者さんと顔を見合わせ「ヨシッ」となります。匿名希望 編集部 光景が目に浮かぶようです。便秘という敵に対峙してきた戦友のような患者さんとのアイコンタクト。必殺わざは「お灸」ですね! ### 患者様からのうれしい報告  自律神経が乱れていて、日々の生活を送ることが大変だった方から「先生のおかげで家族旅行の計画を立てる気持ちになってきました。○月○日に行こうかと思います」と仰ってくださったときに、初めて鍼灸師として働けることの喜びを知りました。葉鍼灸科/葉宜苑先生 編集部 体の調子が悪いと、旅行の計画すら億劫になってしまうものです。治療によって患者様の気持ちが前向きに変わったことが実感できるエピソードですね。 ### 鍼灸が好きすぎて・・・  脊柱管狭窄症をお持ちの患者様。鍼灸を受けたいがために、リハビリをキャンセルしようとする…。鍼灸を好きなのは良くわかるけど、リハビリも受けて下さい!!匿名希望 編集部 患者様に対する切実な叫びが届いております(笑)。そこまで鍼灸を好きになってくれるのはうれしいことですが、患者様のお身体がよくなることが一番。心を鬼にして(?)リハビリに送り出しましょう。 ## すえとこクリエイティ部 CREATED BY 東方堂鍼灸治療院/中村寛先生 使い終わった長生灸の台紙の、サステナブルな使い道の提案です。 (写真1)フォトプレート 写真を貼り鍼管を差して出来上がり (写真2)台紙を貼り合わせて切ったものを 指の第二関節への施術の固定に利用 編集部 使用後の鍼管や台座灸の台紙を活用した斬新なアイデアをご紹介してくださいました!長生灸の台紙と穴は、そのために作ったのか?(違います)というくらい写真立てにピッタリなサイズで、メーカーもびっくりです(笑)。 ## 読者の声  3号がすえとこ初めましてなのですが、先ず表紙のもぐさんの可愛さにほっこりし、すえとこ内の端々で働くもぐさんのカットがとても可愛かったです。どの記事も読んでいてとても参考になりましたが、『お灸ってすごい』の記事は冷え症のお問い合わせがちょうどあったのもあり大変興味深く読ませていただきました。また次号も楽しみにしています。 編集部 グッドタイミングでしたね!まだ冷え症のツライ時期が続きますので、大いに活用していただければと思います。  お灸堂の先生の内容は、考え方がすてきで、今からの時代にむけてのヒントになりました。先生と呼ばれる治療家は、話をしていて、自分がどうしたいかを考えている人がとても多いと感じていますが、患者さんが望んでいることと離れていることに気づきにくいため、このように振り返らせてもらえました。またこれからの時代、SNSを使っていく、時代に柔軟に合わせていくことも、結果として鍼灸治療が広まり、人々の健康や生活の質につながる結果となると思いました。 編集部 鍼灸師や鍼灸の世界を客観的にとらえ、活動の幅を広げている鋤柄先生のお話は、たくさんの気づきを与えてくださいましたね!今後のご活躍にも注目です。 # behind the scenes 〜取材の裏側 ## リサーチ!わたしの鍼灸治療 〜直接灸 編〜 水谷 潤治 先生  竹筒も紫雲膏もご自身で作られているという水谷先生。取材の日も実物をお持ちいただき、実際の施灸手順を見せてくださいました。「練習してみてください。すぐにできるようになりますよ」とおっしゃって、竹筒と紫雲膏をプレゼントしてくださいました。あの日拝見した、迷いなく動く先生のなめらかな手の動きは美しく、脳内ではありありと思い描けるのですが、自身の手ではまだまったく再現ができません…。相手の分け隔てなく、ご自身の技術を教えてくださる先生の寛大なお人柄も、グローバルにお灸が受け入れられているゆえんではないかと思いました。 ## Closeup! 治療院 もぐさんぽ 唯内 喜史 先生  唯内先生と奥様のゆめみ様。日程調整や記事の確認など、ゆめみ様にもお世話になりました。おうちでは奥様やお子様に長生灸をすえるのが日課になっているという唯内先生。お子様は寝る前にお灸をしてもらって、そのまま寝てしまうそうです。なんともうらやましいルーティンですね。最近はお灸をしないと落ち着かないようで、お子様の方から「お灸して」とお願いされるそうです。ご家族の絆にも長生灸が一役買っている、そんなお話を聞いて、心があたたかくなりました。